勝負は試合が終わるまで
確かにそこにあったはずだった。
つい5分前まで、勝利へのカウントダウンをしていた。
実況は「9回表が終わって、関学園が1点リード、大金星まであとアウト3つです!」と発していた。
9回裏の攻撃が、9番打者から始まる文理高校は、この大会の去年の優勝校だ。
マウンド上は、この決勝まで救援の仕事を全うしてきた3年生。
文理高校は9番がヒットで出塁し、1番の2年生はアウトになったが、2番が四球で繋いだ。
このままで終われない、3年生の意地だった。
左打席には3番打者。ここまでノーヒットで、前の打席では三振。心底悔しがった。
バットを振らず、2球待った。
3球目、快音が響く。静寂が生まれた。
球場のみんなが、高々と上がった打球を追う。
守る関学園のライトが、頭上を見上げ、諦めた。
サヨナラ スリーランホームラン。
マウンドの投手は号泣している。
また、ネクストバッターズサークルの4番打者 文理高校の主将も号泣していた。
三振して悔しがっていた3番打者の彼に
「まだチャンスはある」と語ったのは、主将だった。
この一言がなかったら、どういう結果だっただろう。答えは分からないが、主将の言葉は効いたのだろう。
2年連続優勝は、実に28年ぶりの事だった。
あのホームランは、野球の怖さを現し、そして重い重い歴史の扉を開いたのだ。
2014年 新潟
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