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小さな地球をみつめるローカル旅

今よりも少し豊かなくらしができたら。そう願うとして、求める「豊かさ」とは何でしょうか。経済優先の社会では、お金がいくらあっても心配が尽きません。でも、それだけではない大切なもの、人生に響く何かがあるはずー。これから「未来の豊かなくらし」を探究する旅として、ご案内したいのは千葉県房総半島のこと。美しい里山にはデザイン知が受け継がれていて、国や世代も様々に交流できるヒントが潜んでいます。青い鳥を探すような気持ちで、私たちと小さな旅に出掛けてみませんか。

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旅の気づきで開かれるこころ

旅先のいつもと違う時間の流れ、異なる場所に身をおいて感じる解放感と癒し。
とくに海外での体験は常識が通用しない面白さがあります。環境が違うほどに価値観が崩れて、人生を変えるきっかけになることも。それまで「分かった」と思っていたことも、自分の尺度に照らし合わせた理解に過ぎず、無意識に社会のシステムに囚われている状況なども見えてきます。旅に出ることは、こうした自分を客観視する時間を重ね、自分のあたまで考える力を強くしてくれそうです。

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私たちは直面している社会問題に対して、すぐに正解や根拠のない安心を求めて解決させようと試みます。複雑な社会で、その選択が良かったのかはすぐにわかりません。夢のエネルギーであった原発は環境汚染に、フロンガスはオゾン層破壊に、プラスチックは公害に。新型コロナウイルスや気候変動はどうでしょうか。様々な正義がネット上でもぶつかり合います。

迷いながら弱さを自覚しながら、時間をかけて希望を見出してみる。出会いと別れの連続、選択し続けるのが人生の旅なら、自分らしく過ごせる場所を探し、ゆっくりと共感の成熟に寄り添ってみるのも導きにつながるかもしれません。

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時間はいのち 心の声を聴く

新型コロナウイルスのパンデミックが発生してから、旅も一期一会に心を通わす大らかさより、疑心暗鬼に身構えてしまう時もあります。それぞれ触れている情報で正義が違うのですから、誤解が生じやすいのは仕方のないこと。ウイルスは人間社会を分断した反面、暮らしの価値観を転じる変革期にもなりました。覚醒された五感で改めて環境問題や働き方、衣食住の見直しを丁寧に考えられたら。

ミヒャエル・エンデ『モモ』が長く再読され続けるのは、お金を唯一の価値とした消費社会の歪みを感じてしまうからかもしれません。魚が水を意識しないように、人は本当に大事なものに気が付きにくい。自分の中にある魂の導きのような答えに、どう気が付けるのかで未来が変わっていくとして。それは少し視点を変えるだけかもしれないのですが、心から悟るには身に沁みないと分からないものです。

けれど時間とは、生きるということ、そのものなのです。そして人のいのちは心を住みかとしているのです。人間が時間を節約すればするほど、生活はやせほそっていくのです。
《ミヒャエル・エンデ「モモ」より》

バタフライ効果を未来へ

全国各地のローカルでは、地域の豊かさを再発見する場が次々に考案され、パイオニアとなるデザイナーたちが日夜実験しています。千葉県鴨川の「小さな地球プロジェクト」もローカルパワーが渦巻くスポットのひとつ。

コミュニティが目指すのは、江戸時代の知恵にみるようなサーキュラーエコノミー(循環型経済)。土地の物語を掘り起こし、見落としていた価値を拾いあげ、循環を生み出していく仕掛けです。アイデアやデザインも、初めから理想や完璧を求めすぎないで対話で作り上げるから、過程を面白がって多様な面々が遊びに来ています。とくに交流を深めているデンマークの北欧らしい成熟した社会や教育がお手本となり、日本古来の素材と文化を生かしたコンテンツが発想されています。 

私たちはいつでも未来の始まりにいて、社会が良くなるバタフライ効果を仕掛けることができる。

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例えば、デンマーク発祥の森のようちえん。子どもたちが信頼する大人に徹底的に受け止めてもらえる経験が根底にあります。根っこで支えあえる人間関係は、大げさでなく国を支える力になります。じっくりと自分の頭で考え、内なる声を聴く時間をつくるのです。里山の森のようちえん構想、トトロのような懐かしさを感じさせてくれます。

美しいものに感動する心、目に見えぬものへの畏敬の思い、人びととむつみあうよろこび、未知のものへの好奇心とおどろきの念―こうした心のはたらきが幼いときからつちかわれていれば、どんな世の中になっても、どんなに貧しく苦しい思いをしても、人には心にゆたかさとよろこびをもって生きて行ける。こういう若い人たちが歴史を新しくしてくれることを、期待することも許されよう。
《神谷美恵子「子どもに期待するもの」より》

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《上写真:デンマーク 森のようちえん》

強いられる義務ではなく、人生で実現したい宿題を。

小さな里山からフードロスや気候変動、世界の入り口に意識を向かわせることもできます。豊かさの本質を見極めたいとき、人を大らかにしてくれる環境で、少し視点を変えた体験は心に響くかもしれません。

生命の流れと深く本能的につながる自然の中で、私たちは美しい星に生まれたという実感をともなって、宇宙から地球を眺める視点で未来を考えることができたなら、大きな意味に変わっていくだろうと思います。

強いられる義務ではなく、人生で実現したい宿題を。かつての夏休みを思い出す楽しさで、里山に遊びに来てみてください。命が目覚めるような食もあり、あわたびが心を込めて小さな地球をご案内いたします。


TOP写真:千葉県鴨川「小さな地球プロジェクト」天水棚田
文:あわたび 橘 聖子

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