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何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン

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連載小説です。失われた魔法の探索の旅の途中、若き女魔法使いラザラ・ポーリンが、ゴブリン王国の王位継承争いに巻き込まれてゆく冒険物語です。迷い多き人生に勇気を与えたい、そんな志を持…
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#冒険

#34. <酔剣のザギス> 対 親衛隊長デュラモ

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#34.  <酔剣のザギス> 対 親衛隊長デュラモ  デュラモとザギスの戦いは熾烈を極めた。  その剣戟は、激しい金属音を謁見の間じゅうに響かせた。二人の息づかい、気合いを入れるための短い声、そして痛みに耐えるうめきが、金属音に交じり、奇妙な音楽を奏でているかのようだった。  はじめはデュラモが押していたが、酔いが回り、足元がふらふらになるにつれ、ザギスの剣技がさえわたるようになっていった。その力の逆転が明らかになった

#33.謁見の間・ヤースの断崖

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#33. 謁見の間・ヤースの断崖 リフェティの謁見の間、通称ヤースの崖は、巨大な卵状の地下空間の中ほどに突き出た崖の上にある。  王が座る玉座は、崖のへりに設置されている。  かつて、<おっちょこちょいの王>と呼ばれたヤースが、過って崖から落死して以来、ヤースの崖と呼ばれるようになった。  危険と隣り合わせの玉座であるが、この空間は大魔法使いヤザヴィの傑作とも言われている。玉座に座れば、卵状の空間全てを見渡すことがで

#31.不如意たる(思い通りにならない)現実

何物でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#31.不如意たる(思い通りにならない)現実  チーグを敵と認識し、襲いかかってきたホブゴブリンたちは、またたく間にデュラモに切り伏せられた。   一般的にホブゴブリン族はゴブリン族より強いが、親衛隊長のデュラモはゴブリン王国において屈指の戦士である。並のホブゴブリンでは、全く歯がたたなかった。  大仰な台詞を言った以外に大して何もしなかったチーグだったが、見張りの兵たちが倒れるのを見ると、ほっとしたように服のほこりを

#27. 兄と弟、そして友たち

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#27.  兄と弟、そして友たち  チーグが<林の書庫>と呼ぶ隠れ家に、夜が訪れる。  パチパチと音を立てながら薪が燃える暖炉の前に、第二王子のバレは座っていた。病弱な彼にとって、リフェティからの脱出行は苦難であった。太陽の光が彼の体力を奪い、乾いた空気が咳の発作を引き起こす。木造りの家も苦手だった・・・彼は、エルフや人間ではない。木の匂いは、身体の弱った彼に不快さをもたらした。  リフェティの自分の部屋が一番だ・・・

#26. 林の書庫にて

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#26. 林の書庫にて  ダネガリスの言葉通り、枯れ木の塔からダネガリスの野を越えるまでは何の障害もない一本道で、翌日の夕方には、チーグたちはゴブリン王国の南端へと到達していた。  彼らは、チーグが<林の書庫>と呼ぶ、木々に囲まれた古い屋敷へと向かった。  かつて、王国の南側の見張り兵の詰め所であったが、ダネガリスの野から王国へ入る者はいないため、いつしかうち捨てられた廃屋となっていた。それをチーグが補修し、こっそりと

#20. 枯れ木の迷宮

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#20.枯れ木の迷宮  『短く、険しい道』  という言葉に反応し、宙に浮く炎の文字は姿を消した。  大地がざわめくような不気味な音を立てながら、枯れ木が生え変わり、彼らの目の前で姿を変えていった。  そして、現れたのは左右を枯れ木に挟まれた道・・・その道の先には、低い枯れ木が密集して作られた、巨大な迷路があった。  地の果てまで続く、枯れ木の迷宮。  彼らは、言葉を失った。 「・・・これが、短く、険しい道?」

#19.みっつの道

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#19.みっつの道  翌朝、早起きのノタックが、ポーリンの身体をゆすった。 「起きてくれ、様子が変だ」  切迫した言葉とともに目覚めたポーリンは、周囲の風景が昨晩とは一変していることに気づいた。  彼女たちは、枯れ木が形作るアーチの前にいた。そして、眼前には、ぼろぼろの木製テーブルと、その上には銀色で縁どられた古い皿が置かれていた。  ポーリンの眠気は一瞬にして吹き飛んだ。  折しも、昨日まで空を覆っていた薄雲は

#18.呪われた地 ダネガリスの野

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#18.呪われた地 ダネガリスの野  チーグ一行がダネガリスの野にはいって、まる一日が過ぎようとしていた。  けれども、彼らは全く前進していなかった。文字通り、「全く」である。  枯れ木が密集する荒れ地を、太陽の位置を手掛かりに進むものの、気が付けば行く手が分からなくなっている。背の高い枯れ木に取り囲まれ、太陽の位置が分からなくなることがあれば、いま通ってきたばかりの道を引き返そうとすると、枯れ木が道を塞いでいたりする

何者でもない者たちの物語:烈火の魔女と本読むゴブリン#0

#0 プロローグ人はなぜ、生きるのか? 生そのものには、あまり意味はないのかも知れない。 ある聡明な少年は、そう言った。 目の前のただ一歩、ただ一呼吸に全てをささげること、そしてその繰り返し。 それは真理だと思う。 一方で、かつて彼女を突き動かした情熱の炎は、別の記憶に光を当てようとする。否、記憶というよりは、体感・・・今こそ生きていると感じる、その瞬間。 それこそが「生」だ。 その、魂が熱く燃えるかのような特別なときを、彼女は長い人生のなかで何度か経験した。