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成人の日~みんなおばさんになるよ~

成人の日。去年の夏に二十歳の誕生日を迎えていた弟が、オーダーで仕立てたグリーンチェックのスーツにイエローのネクタイを結んで出かけて行った。生地を選んだとき母は「そんな派手な生地でスーツなんて、サプールみたい」と心配していたが、実際に出来上がってみると想像していたようなトンチキさはなく、むしろ光を受けて上品に艶めく深いグリーンが背の高い弟によく似合っていた。

なにより驚いたのは、スーツを着て試着室から出てきたときの弟の凛々しさ。毎日のように顔を合わせているというのに、きちんと体形に合ったスーツを身に纏った弟のスタイルはいつもとは見違えるようで、家にいるよりさらに大きく見えた。最近始めたモデルの仕事も順調らしい。そんなに簡単に上手くはいかないだろうと高をくくっていた私は納得がいかず「私たちが気がついてないだけで、もしやアイツは逸材なのか?」と、母とふたりで人知れず審議会を開催したほどだ。

やはり家の中だけでは家族の成長というものは把握しきれない。私は家で祖母からしょっちゅう「こんなこともできないなんてお嫁にいけないよ」と叱られているが、案外、他人の家では率先して掃除や皿洗いなんかをやっているものである。もちろん、家にいるときみたいに床に落とした食べ物も食べないし、パンツのままうろついたりもしない。祖母が思っているより、私は外では結構「大人」をやっている。

さて、弟の立派なさまを見て、自分が二十歳のときはどうだったかと考えてみる。今から7年ほど前のことなので、正直あまり鮮明には憶えていない。

残っている写真は幼なじみたちとのプリクラと、横浜駅前のビブレ(若者向けの商業施設)の前の汚い壁をバックに撮った振り袖姿だけである。二十歳の私は、なぜかほとんどの写真で中指を立てており、今となっては恥ずかしくて目も当てられない。あとは自宅を出た直後に犬のフンを踏んだことや、会場で爆竹が鳴ったこと、フワフワの襟巻がどうしても気に食わなくて着けなかったことくらいしか思い出せない。

それと、もう若くはないのだと思ったこと。

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「もっと知りたい。こんなとき、貴方になんと伝えようか。もっと聞きたい。貴方はなんて言ってくれるの。」 月2回更新します。

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