おっちゃんの一番好きなナス料理
野菜の無人販売所が好きで、週に何度かは「ちょっと行きつけのショップまで」的な気分でいそいそと出かける。数カ所あるお気に入りのうち 一軒では割と高い確率でオーナーのおっちゃんというかおじいちゃんが店番をしていて、このところ少しずつ会話を交わすようになった。
ちなみに初めて話した時はこんな感じ(買い物をしたあと、ほかにお客さんがいなかったこともあり前から気になっていたお願いをしてみたのだった)。
泡「いつも野菜めっちゃきれいに並べてはりますよね。写真撮らせてもらってもいいですか?」
お「ええっ、アンタ前にもそう言うて写真撮っていったやんか! 中国から来た、言うてめずらしがってな」
泡「えええっ ! いやいやいや、今日初めてお願いしましたよ〜。ていうか、こんなに身体でかくて派手な服着てて写真撮りたがる人が2人もいてるんですか……。しかも中国から来はってようここを見つけましたねその人」
お「……いんや、アンタ前にも撮ってた。まぁええけど。せやけどわしの顔はあかんで」
泡「もちろんです(ええお顔やから本当は撮りたい……でも)。お野菜だけ!」
▲この時撮った写真の一部分。心底惚れ惚れするディスプレイ。
で、今朝のこと。
つやっつやのナスを前に「どれにしよ〜」と悩む私に「これにし!」と言い切り、てきぱきと袋に入れるおっちゃん。「ええナスを選ぶコツってあるんですか?」と聞けば「んん? なんとのうや!」とにべもなくにもほどがある返答。ははーん、さては面倒くさがってるな。そこでふと質問を重ねてみたら、ナス農家であるおっちゃんのスイッチが入ったのか、まー喋ること喋ること!
泡「おとうさんの一番好きなナスの食べ方ってどんなんですか?」
お(ピコーン!)「ワシかー。ワシは昔の人間やさかいな。だしじゃこと炊くのがいっちばん好っきやな」
泡「だしじゃこと! それはやったことないなぁ」
お「じゃことな、水とな、鍋に入れるやろ。ほんで“おしょゆぅ”(お醤油のことを京都のひとはこう発音する。とてもいい)入れて沸かしてな。そこへナス入れて炊くねん」
泡「ナスは切れ目を入れたりとか?」
お「いんや、こうして(ヘタを切って)、こうこうこう、や(たぶん乱切りのジェスチャー)」
お「ほんで、お椀に盛ってな。こうこう、こう(ジェスチャー)」
泡「あったかいまま食べるのがいいんですか? 冷やしても美味しそうやけど」
お「せやっ! あったかいのがええ。冷やすなら、ほれ、アレに入れたらあかんねん」
泡「冷蔵庫に入れんとそのまま鍋でおいて、味しゅんで(しみて)から食べるてこと?」
お「そうそうそうそう!」(前のめり気味)
泡「美味しそう! やってみます!」
お「ナスは足がはやいさかいにな、いっぺんにようけ作らんと、食べる分だけにしいや〜」
さっそく我が家にはなかっただしじゃこ(煮干し)を買って、おっちゃんの言葉を思い出しながら作ってみた。
おしょゆぅの発音がやっぱりかわいいよね。どれくらいの時間炊くのか聞くの忘れたけどちょっと柔らかくなるくらいでいいのかな。なんて考えていたらあっと言う間にできた。鍋は別の料理にも使うので丼に移し、そのまま冷まして晩酌のアテに。
だしじゃこのだしがちゃんと出て、“おしょゆぅ”のキリッとした感じとナスの甘みが合ってておいしい。そしてどこか懐かしいような味。これがおっちゃんの好きな味。
アテのレパートリーとともに、親しくはないけど好ましい人との思い出がひとつ増えた。うれしい。
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