「時計」買いますか?
__________時計のない部屋。
10畳半。男子大学生一人暮らし。
光の入らない部屋。
あるのはソファベッドと備え付けの机。
ロフトには来客用の布団一式。
そして小さな本棚に収められた積読。
ご飯はミニテーブルで、ソファベッドに腰掛けて。
夜中3時に眠りに落ちて
昼11時ごろに目覚める。
お腹が空いた時にご飯を食べる。
いつがいつでも構わない。
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この部屋には時計がない。
時間を忘れた起床。
時間を忘れた食事。
時間を忘れたネットフリックス。
時間を忘れた入眠。
光の入らない部屋。
朝なのか昼なのか夜なのか。
誰が時間を決めるのか。
時計のない部屋には時間がないかのよう。
大阪梅田・ヨドバシカメラ。
時計コーナー。
腕時計が欲しくて立ち寄った。
少し歩くとクロックウォール。
「時間」がそこには存在した。
進む針に目を奪われていると隣から声が聞こえた。
「時計」買いますか?
黒縁メガネをかけた女性の店員。
白いブラウスにグレーのタイトスカート。
左手に腕時計。
青紐で吊り下げられた名札。
名前は遠野。遠野、なんだろう。
「時計」買いますか?
彼女は復唱する。
「時計」買いますか?
目が回りそうなひと。
目が回りそうな時計。
時計に囲まれて、彼は立ち尽くす。
__________
あの部屋にはない。
「時計」
時間という概念の持ち込み。
時間を忘れた生活の手放し。
忘れられない時計の針。
彼は深く目を閉じた。
思い浮かべる
__________時計のない部屋。
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「時計はまだ、いらない。」
以上、ご清聴ありがとうございました。
nae'avocado
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