痩せ細る高津臣吾に伝えたい、野村克也の「もうひとつの遺言」と一つの提言
「痩せたな」。
初めてそう感じたのは2022年11月、愛媛・松山の秋季キャンプだった。
バッティングケージの後ろから打撃練習を見守る東京ヤクルトスワローズ監督・高津臣吾は、以前と比べ明らかに痩せていた。
この前はどうだったかな。ほんの2週間前の、日本シリーズ最終戦の光景を、頭の中で呼び起こす。
2022年、東京ヤクルトスワローズ対オリックス・バファローズの日本シリーズは、オリックス26年ぶりの日本シリーズ制覇で幕を閉じた。
表彰式の準備が進む中、ライトスタンドへあいさつに向かうヤクルトナインの後姿を、私はバックネット裏のスタンドから見送った。
負けたか。遠くに並ぶ一列の背番号を、ぼーっと見つめる。
全員が一礼したその瞬間、つば九郎の隣に並ぶ高津臣吾の、右腕で目元を拭う仕草が目に入った。
え、泣いてる?
驚いた。高津臣吾の涙を見たのは、3回目だ。
1回目は独立リーグ・アルビレックス新潟BCでの引退スピーチ、2回目は恩師・野村克也の急逝を受け応じたインタビューだ。
(1993年日本シリーズ制覇の瞬間、マウンドで捕手・古田敦也と抱き合った時のことは、頑なに「泣いてない!」と言い張っていたのでカウントしないでおく笑。)
ファンに涙を見せない高津臣吾が、目を真っ赤にして泣いている。しかし私の驚きはそれが理由ではなかった。
私自身の認識の甘さに驚いたのだ。
2勝0敗1分からの日本シリーズ4連敗の間に、ヤクルト野球の代名詞と信じて疑わなかった「鉄壁の中継ぎ陣」というフレーズは、オリックス投手陣のものへ取って代わっていた。
気迫のピッチングに圧倒され、思わず息をのむ。声燕(声援)が禁止されていたことだけが理由ではない神宮の静寂を、私は堪能していた。
2022年限りで勇退が決まっていたオリックス・宮内義彦オーナー(当時)の胴上げは、まさにオリックスのためにあった日本シリーズと思わせる“様式美”に満ちていた。
そもそも私は、オリックス逆転リーグ優勝の「10.2」で満足してしまっていた。
お互い、「2021年の優勝が奇跡でなかったことを証明できた」達成感で、私の日本シリーズは完結していた。
“オリックス優勝物語”をすんなり受け入れているこの一介のヤクルトファンと、敗北を受け止め人目をはばからず涙に暮れる指揮官の、勝利に対する意識の差。
あの日のバックネット1枚隔てた別世界と、目の前に広がる坊っちゃんスタジアムのグラウンドを重ね合わせる。
……あの時から、こんなに痩せていたっけかな。
あの涙が当然悔し涙だったことを知るのは、もう少し後になってからだ。*1
そしてそのもっと後。ヤクルトは今、日本一奪還とは対極のところで戦い、高津臣吾はますます痩せ細っていっている。
高津臣吾の師、野村克也は亡くなる直前の2020年1月20日、ヤクルトのOB会に初めて出席した。その3週間後の逝去など誰も想像していなかったが、今となっては最初で最後のOB会参加となり、そのときの言葉が「遺言」となってしまった。
「頭を使え。頭を使えば勝てる。最下位なんだから好きなように思い切ってやりなさい」。
野村監督を偲ぶ会の弔辞で明かされたこの言葉は、野村野球そのものを表している。*2
今の高津臣吾にとって、勇気の出る言葉だ。
だが私はもうひとつ、もしかすると高津臣吾に届いていないかもしれない言葉を、ここに置いておきたいと思う。
OB会の後、記者を相手に語った、この「遺言」だ。*3
「弱いチームを強くするのは楽しいよ」。
1990年の監督就任時、ヤクルトは優勝から11年遠ざかるばかりか、万年Bクラスと揶揄される弱いチームだった。
そのチームで野村克也が取り組んだことは、「野村ID野球」と言われた“頭を使う野球”を徹底的に教え込むことだった。
連日連夜開かれる野村ミーティングで、眠い目をこすって食らいついた若者たちの中に、高津臣吾青年もいた。
考える野球を実践し、その結果、チームはリーグ連覇(92、93年)、日本一(93年)を果たすまでに強くなった。
この、「弱いチームを強くする」という野球の楽しみ方は、現役時代「青じゃアドレナリンが出ない!」と、バッテリーを組む古田敦也に自分が投げる時だけ赤のキャッチャーミットに変えさせた、闘志剥き出しの勝負師・高津臣吾という人に合っていると、私は思っている。
そして、教え子の背中をそっと押して励ます、その深い愛情。
「弱いチームを強くするのは楽しいよ」。私の大好きな遺言だ。
実際、最下位だった2020年から2021年の日本一まで、弱いチームを率いて強くした日々は存在した。
野村監督から継承した、頭を使う高津野球が令和の強いヤクルトを築いたのは紛れもない事実だ。
今の状況を楽しむことができていたら、痩せ細る高津臣吾にファンが心配を募らせることもなかっただろう。
しかし、苦労はあってももう一度、勝つために頭を使うその過程を楽しんでほしいのだ。
そうすれば、自然と食事量も増えていく……ことを期待して、もう一つ、私から伝えたいことがある。
とにかく、何でもいいから口にしてほしい。
「泣いてない!」同様、「痩せてない!」と言われそうだが、あれだけ顎が小さくなればいい加減“バレる”。男性は、顔が痩せると喉仏が目立つ。
そんなに細くちゃ野球などできない。野球選手には、元気の発信者であってほしいのだ。
そうだ、ヤクルト製品ならクラブハウスで毎日摂ることができる。乳酸菌飲料で腸内環境を良くするところから始めよう。
少なくとも、ヤクルトを飲んでいる間は、顔があがるしね。
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