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高橋奎二に聞く 今年は何位だ!?

6月13日、対ソフトバンク戦。先発の高橋奎二は、被安打7四死球7の5失点で途中降板した。
ストライクが入らない。連続四球に押し出しで2点献上。2回終了時で球数は60球を数えた。
2対0で迎えた4回、山田哲人の2ランホームランでヤクルトは同点に追いつく。故障離脱したキャプテンの、意地の一発。後半、どう戦うか。さあここから。
しかし、高橋奎二は立ち直れなかった。連続安打、四死球で失点を重ね、4回1/3で降板した。球数96。汗だくの、自滅投球だった。

前日の6月12日。2023年ドラフト4位の高卒ルーキー・鈴木叶(きょう)が、正捕手・中村悠平に代わり一軍登録され、早速8番キャッチャーでスタメン起用された。
鈴木叶は二軍戦でホームランを量産しており、「ヤンスワ(ヤングスワローズ)にまた逸材が加わった」と、ファンがその活躍に期待する中、デビュー戦に臆することなく同点の4回2アウト満塁からレフト前タイムリーを放ち、2点を勝ち越す。守備では、バッテリーで王者ソフトバンクを7安打3点に抑え、連敗を阻止した。
18歳2か月の大活躍に、希望はふくらむ。最下位のヤクルトだが、首位とは5.5ゲーム差(6月12日時点)。このまま離されず食らいついていけば、好機は必ず訪れる。さあここから。

……その翌日の、高橋奎二の敗戦。いつもの何倍にも感じる、疲弊だった。

指揮官・高津臣吾監督からは苦言が止まらない。今季初勝利から調子の上がらなかった高橋を、4月26日から5月23日まで登録抹消した。シーズン中の貴重な約1か月を調整期間として与えた結果が、試合をつくれず途中降板では、しかたない。
監督の敗戦インタビューでも強い言葉が並んだが、そんな中で、「えっ?」と思う発言があった。

――原因としては力みすぎている
「僕は心だと思いますね。精神的なものだと思いますね。不安とか恐怖とかに押しつぶされてるように見えましたけどね」 *1

【指揮官一問一答】ヤクルト・高津監督、四回途中7安打7四死球で降板の高橋奎二に「ひどかった。僕も限界」(サンケイスポーツ)


私は驚いた。高橋奎二の乱調は、心理的なものだったのか?
前のめりで向かっていく野球ではなく、高津臣吾が一番嫌う、縮こまった野球。それを奎二がしているとは。一介のヤクルトファンには思いもよらぬことだった。

だが同時に、今季初勝利の4月18日、試合後のヒーローインタビューを思い出した。

――チームを代表してファンへメッセージをお願いします。
「いつも熱いご声援をありがとうございます。今最下位ですけど、絶対Aクラス目指して頑張るので、熱いご声援よろしくお願いします」

――Aクラスでいいですか? 改めて聞きますが。
「優勝目指します!」*2

【ヒーローインタビュー】7回2安打1失点の好投で今季2勝目をあげた高橋奎二投手|6月6日 東京ヤクルトスワローズvs埼玉西武ライオンズ (神宮球場) (youtube.com)


インタビュアーが思わず聞き返した、目指すはAクラスという低い目標設定に、明治神宮野球場にいた私は思わず「えっ!」と声を出した。
Aクラスが低い目標と言えるほど楽な試合はしていない。実際、ヤクルトは最下位だ。
しかし、順位は最下位でもゲーム差は6(6月6日時点)。まだ6月、早々に目標を下方修正するほど瀕した状態ではないのではないか? 何より、ファンは優勝をまったく諦めていない。
それを選手自ら「Aクラス」とは。神宮のスタンドもざわついていた。

◇◇◇

高卒ルーキーは、ずっと高校生を見る目で見てしまう。
社会経験の少ない、周りの大人の教育と支援が必要な、こども。

そんな奎二も、気づけば27歳。チームを牽引し、先発ローテーションで主軸を担う立場の年齢になっていた。
そんな重圧があの四死球連発につながり、目指すはAクラスという控えめな言葉になっているというのか。

「平安高校から(2015年)ドラフト3位で入ってきた高橋奎二くん」は、休日二軍球場のある戸田の河川敷で缶蹴り遊びに興じ*3、観客席にいるお父さんの姿を見つけてずっと手を振っている、無邪気なこどもだった。

高橋奎二の良さは、この天真爛漫さではないのか。

年齢やキャリアとともに、チーム内での役割は変わり、重くなる。大人になることを求められるのも当然だ。
それでも、「うぉっ!」と雄叫びを上げながら速球をバンバン投げ込む奎二を入団からずっと見てきたファンからすれば、その挑戦者たる姿勢は失ってほしくない。

一歩引いたヒーローインタビューは、過去にもあった。今から4年前の2020年7月30日、8回無失点で勝利投手になった試合だ。

――今後に向けての抱負、意気込みというのも教えてください。

はい、今日みたいなピッチングが毎回できるわけではありませんが、今日みたいなピッチングを毎回できるように頑張ります。応援よろしくお願いします。

……奥ゆかしい性格は、素晴らしいと思う。謙虚さのある野球選手は、必ず伸びる。
そして、「今日みたいなピッチング」をチームからもファンからも求められている苦しみは、計り知れない。

だが、相手もプロ。高橋奎二を研究し、つぶしにかかってくることも、誰しもが分かっている。それを理解した上で、奎二に「頑張れ」を送っているのだ。

だから、これからは、そんな予防線を張らなくていい。打たれたらどうしよう? そんなこと考えている間に、奎二の速球を見せてほしい。
優勝は「ミッション」ではなく、「ゴール」だ。

改めて聞く。奎二。

東京ヤクルトスワローズ、今年は、何位だ!?

(2024/7/7 15:20初稿 一部改変・転載)

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