BIGBOSSじゃなく、新庄がつくる野球チーム
新庄剛志が戻ってきて、私の知るファイターズは解体した。
思えば2017年、東京ヤクルトスワローズの大連敗に間を持て余した私が、衛星放送のザッピングでたまたま見かけたのが、ヤクルト出身の監督・栗山英樹だった。
その両隣には、城石憲之と吉井理人。3人のスワローズOBが画面に映る。
「ヤクルトの選手、いるな」。
そこから始まった、ファイターズファン歴だった。
ファンクラブデビューをした2018年、もう大谷翔平はいなかった。
4回も北海道に遠征し、札幌ドームで近くに座っていた女性とメル友になった。今では“LINE友”だ。
先日も、LINEアルバムに侍ジャパンの写真を送った。
「ファイターズのベンチになってますよ」と。
2021年、栗山英樹が去った。11年の長期政権。
ファンの間では、10年を節目に勇退し、後任は侍ジャパン監督経験のあるOB・稲葉篤紀だと予想されていた。
しかし、新型コロナウイルス蔓延により東京オリンピックが1年延期され、稲葉篤紀の任期も延長した。
東京オリンピックの優勝を手土産に、北海道に凱旋する姿を想像していたところの、新庄剛志新監督。
これを超えるサプライズ演出などあるだろうか。
大谷翔平も見ていない私は、当然ダルビッシュも見ていない。だから、新庄のことも、まったく見ていない。
ファイターズどころか、パ・リーグの試合を見ることがなかった私だが、「新庄劇場」という言葉は知っていた。
シーズン当初に引退を発表することも、そのシーズンで優勝、日本一を掴み取ることも、派手なスターについてまわるエピソードだった。
古くからのファンは北海道に帰ってくる新庄に歓喜している。
しかし、思い入れを持って新庄を見たことのない私にとっては、懐疑的な監督就任だった。
2021年、ファイターズは中田翔の暴力行為という不祥事があった。しかし無期限出場停止処分の最中に讀賣巨人軍へ無償トレード。そのタイミングで無期限出場停止も解除された。
なし崩しの処分解除に加え、シーズン初頭の円陣での人種差別発言が問題視され、球団社長が謝罪する事態に陥っていた。
ファンは呆れた。年末に消滅するファンクラブポイントがお詫びの繰り越しとなっても尚、ファンクラブを辞めようか悩むファンの呟きを複数見かけた。
そんな中での新庄召喚。
ファン離れを防ぐための、人寄せなのではないか？
指導者歴もない新庄が、どんな采配をするのか。
少なくとも就任記者会見では分からなかった。
「選手兼監督として契約しました」
「優勝なんか一切目指しません」
「監督じゃなくてBIGBOSSと呼んでください」
「僕が背番号1つけまーす」
2022年のチームスローガン「#ファンは宝物」も、私には白々しく響いていた。
◇
2022年5月26日木曜日。
東京ヤクルトスワローズ対北海道日本ハムファイターズの交流戦第3戦は、終盤にファイターズ・アルカンタラのホームランでリードし、最終回を迎えていた。
クローザーとしてマウンドに送り込まれたのは、北山亘基。開幕投手も務めたドラフト8位のルーキーは、3日連続の抑え登板だった。
北山は、第1戦、第2戦と、サヨナラホームランを打たれている。
ヤクルトファンは三夜連続のサヨナラ勝ちを期待して、ざわついている。
北山は、どんな気持ちでいるのか。
その時、BIGBOSSがベンチを出て、マウンドに向かう北山に歩み寄り、何かを話しかけた。
私はてっきり、「おまえはやれる。リベンジだ！」とでも言っているのかと思っていた。
しかし、それは違った。
「これだけのファンのみんなが遅くまで残ってくれて、見ているから。超えていけ」
同じ勇気づける言葉でも、大観衆が見守る中でのプレッシャーと戦えと言っていたのだ。
手に人という字を書いて飲んでしまえでも、スタンド全員ジャガイモだと思えでもなく、この状況をそのまま受け止めて、乗り越えろ、と。
BIGBOSSが考えた、「 #ファンは宝物 」のその意味は、不祥事続きでファン離れが進んだファイターズの付け焼刃ではなく、ファンに野球を見せることが仕事の、野球選手の姿勢を示したものだった。
私はこのとき、新庄には目指す野球があって、それに向かって歩み始めたばかりだということを理解した。
派手なパフォーマンスも、表に出ていくのは監督で、選手はファンのために野球をしなさいというメッセージなのだと、そう感じたのだ。
「優勝なんか目指さない」と言っていたBIGBOSSは新庄となり、「（今年は）優勝しか目指さない」と言った。
歩みは、進んでいる。
どんな戦い方をするのか。新庄の野球を、ちゃんと見ているから、私（ファン）を超えていけ。
さぁ、エスコン開幕だ！
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