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走れ!シオミヤスタカ!

イノシシと競走。

ドラフトで獲得した選手のプロフィールでそんな情報が流れてきて驚かずにいられる人は、この世の中にどれほどいるだろうか。イノシシなんて、競走どころか目撃したこともない。ただ、そんな男は実在し、その男は野球をしにヤクルトに入団してきた。

塩見泰隆。2017年ドラフト4位で入団した塩見は、「足で期待されていると思う」と言い切った。時速45kmとも50Kmとも言われるイノシシ。それと対峙する塩見は、当然その足を買われ入団したのだと分かる。
イノシシと競走していた話は、大学時代。帝京大学野球部の練習場は山奥にあり、近くの山にはサルやイノシシが出没する。らしい。

「猪突猛進と言うけれど、あいつら曲がりますよ。全然捕まえられない」

そういう問題じゃない。

帝京大学野球部がそんな自然豊かなところにあることも初めて知ったが、だからといって、その裏山でイノシシと追っかけっこをしようだなんて、誰が考えつくのか。
ん?え!捕まえようとしていたのか!?発想が規格外。興味がわかないわけがない。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

2018年。ある日のファイターズ鎌ヶ谷スタジアム。ファイターズ対東京ヤクルトのファーム戦を見ていた私は、1塁側内野席にいた。

ナチュラルソーシャルディスタンスを取りながらゆったり見られる、平日昼間のファーム戦。日陰のまったくない鎌スタの、夏の日差しはやはり堪える。
ファーム戦では、一軍のような鳴り物や歌の野球応燕はない。そうはいっても、鎌スタの楽天戦では必ず、ラッパの音をアカペラで歌いながら全力応援する「イーグルスニキ」がやってくる。そのニキの応援のおかげで、楽天ファンは一軍戦と同じようにヤングイーグルスを応援できる。「1・2・3・バーン!」ありがたい存在だ。

その日のヤクルト戦は、そんな一軍の応燕を先導してくれるヤクルトファンがいた。応燕歌こそないが、二塁到達で流れるチャンステーマ「夏祭り」を歌ってくれる。夏に歌う夏祭り。2015年の雄平の、優勝決定タイムリーのときに必死で歌ったいちばん縁起のいいチャンステーマ。大好きだ。

オーワッショイワッショイ! ワッショイワッショイ!

隣のブロックには、食べて飲んでしゃべってノリがいい女性4人組がいた。歌ってくれる「夏祭り」に乗っかって、4人で声を出す。
バッターボックスには塩見泰隆。

ハイ!ハイ!そーれ! 塩見!塩見!塩見!塩見!

鎌スタにこだまする塩見の名前。なかなかないことだ。でも楽しい。私も声を出す。

塩見!塩見!塩見!塩見!

いつの間にか、塩見を全力応燕していた。その日のGAORA中継録画を家で見直すと、実況の俳優・伊藤毅キャスターが「応燕の声が聞こえます」とコメントしている。二軍球場ではめずらしい光景に、思わず言ってしまったかのようだった。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

2019年の出陣式の帰り道、馬の被り物を被り「馬キャラ」となった塩見。シーズン終盤には、第1打席の登場曲が「G1ファンファーレ」になった。明治神宮競馬場となった明治神宮野球場は、それはそれは盛り上がった。首脳陣は、あまりいい顔をしていないらしい。でも、いいじゃないの。シオミヤスタカが出走するレースは、絶対に楽しいはずなのだ。

馬は、時速70km。イノシシ、抜けるじゃん。塩見が塁に出れば、その塩見はきっと本塁に帰ってきてくれる。そんな期待を持って、今シーズンも全力で叫ぶ。

塩見!塩見!塩見!塩見!

走れ!シオミヤスタカ!

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