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祝宴狂想曲(6)ケンカをやめて、カメラを止めて、男はみんな外に出て!


みなさま、こんにちは。平日はなかなか時間がなくなってきました、じじょうくみこでございます。わたしが住んでいるシマ島、夏には海水浴客がたくさんやってくるのですが、さてこの夏はどうなりますことやら。連休を間近に控えて島内がピリピリしてまいりました。

というわけで、まだコロナのコの字もなかった5年前のお話、つづきです(長くてほんとすみません)

カモメ


わが故郷でじじょう家関係者を集め、レストランでごくごくささやかな食事会を催すはずが、なぜか恐ろしくプリンセスな乙女ちっくドレスを着るハメになり、すさまじくギャルっぽいヘアメイクをほどこされ、観光客まみれのド観光スポットでのロケーション撮影へ出向くことになったところまでをお伝えいたしました。

婚礼衣装に着替えたダンナハン・ザビ男とわたしと行動を共にするのは、ヘアメイク兼介添え担当の泉ピン子(イメージです)と、ラスボス感あふれる内海桂子師匠ただそこにいるだけのメガネ男子サダカメくん、そしてカメラマンのウミベさんという貸衣装屋の撮影隊。ロケ地はお店から歩いて数分のところにある海岸通りとのことで、そこまで徒歩での移動です。

1分1秒でも早く、人が少ないうちに撮影を終わらせたいわたしとしては、ついついドレスをまくしあげてドスドス大股歩きになるのですが、お店の目の前にある信号が恐ろしく長い。永遠に変わらないんじゃないかとジリジリ待っている間に観光バスがやってきて、御一行様が横断歩道のむこうをゾロゾロ歩いていきます。当然ながらジロジロ注目されます。

左4c

白いドレスが映えてしまう青空が憎い


観光客の群れは見ないようにして海岸通りへ到着すると、じじょう家親族がスタンバイしておりました。このトシになると近くに住んでいてもなかなか顔を合わせないもので、おのおの久々の再会にテンションマックス。どうなの元気なのカラダはどう、あそこのお父さん死んじゃって、孫のなにちゃん子供生まれて、などと会話しながらわたしを見て「あらー」「まあー」と声にならない声。皆まで言うな、わかっておる。

「最初にみんなで撮っちゃいましょうかね」

という桂子師匠のひとことで、まずは全員での記念写真から撮影開始。カメラマンのウミベさんはウエディングには慣れているようで、穏やかな笑顔でテキパキと指示を入れながら撮影を進めていきます。さすがプロ、ありがたい。その勢いでもうちゃっちゃと!ぱっぱと!とっとと終わらせちゃいましょう!とばかりにザビ男もわたしもさくさく動きます。

これがいけなかった。

ウミベさん、どうやらわたしたちを「ノリノリで写真を撮りたがっている熟年夫婦」と勘違いした模様。しかも参列者の中にいた姉きくえのダンナが、なんとウミベさんと高校の同級生だったことが判明。さすが田舎だわ、なんつって感心している場合じゃなくて、知り合いがいるとわかるとウミベさん、がぜんスイッチが入ってしまい、それまでのビジネスライクな接し方が消えて、

「これも何かのご縁ですから、もう今日はいっぱい撮っちゃいましょう! 

大丈夫、おふたりとは後でゆっくり時間とりますからねー♪」


いやいやいやいやウミベさんいらないから! ここでそんなサービス精神いらないから! と言ってもウミベさんは「またまたー」みたいな顔であっちへ移動し、こっちへ移動し、バリエ豊富に撮影をこなしていきます。それを見ていたピン子は

「社長、ご両親と2ショットも撮りましょうか」

と桂子師匠に指示を仰いでいます。その一方でピン子はウミベさんに

「ドレスはもっとこっちに流して座ってもらって。そうそう」

と細かい指示を出しています。それを聞いてウミベさんはちょっと苦い顔をして

「はいはい、センセイの言うとおりにやりますよー」

としぶしぶ答えています。

関係性が見えてきました。どうやら桂子師匠が貸衣装屋の「社長」で、店のドン。そして現場を仕切っているのは「センセイ」と呼ばれるピン子。「社長」と「センセイ」はおそらく年齢的にもほぼ変わらないくらいで、センセイはやり手ワンマンっぽい社長のことをあまりよろしく思っていないらしい。

そのせいか、社長が後はよろしくとばかりに現場を立ち去ると、あとはセンセイの独壇場でありました。集合写真をひとしきり撮り終えると、待ってましたとばかりにツーショットの撮影に突入。

ウミベ「そこのデッキの角に立ってくださーい」
ザビくみ「あ、はい」
センセイ「もうちょっとあっちのほうがいいんじゃない? 後ろの船が入らないから」
ウミベ「でもこっちのほうが背景がすっきりしてますよ」
センセイ「うんあっちのほうがいいんじゃないかな」
ウミベ「はいはい、じゃあすいません、あちらにずれてもらえますか?」
ザビくみ「は、はあ…」

センセイはディレクターとして撮影を仕切っているようですが、そんなセンセイをウミベさんはよろしく思っていないらしい。おそらくウミベさんは、社長に見込まれて撮影を依頼されているのでしょう。

社長とセンセイ。
センセイとウミベさん。
やだ何この三角関係おもしろいんですけど!


カモメ

ちなみにサダカメくんは社長の息子と思われる



ツーショット撮影に入ると、センセイとウミベさんのやりとりは徐々にヒートアップ。ウミベさんが撮るたびに「今度は左をおさえときましょうか」「もう少しアップもいいかしらね」と背後からセンセイの指示がやんわりと入ります。

ひとしきり撮影が進むと、センセイはご満足されたようで「ちょっとお店に戻ってくるから」と海岸通りを立ち去りました。残されたのは、ウミベさんただひとり。そして被写体であるわたしたちは、ほぼ同年代である上に、身内も同然の知り合い。もう彼を止めるものは何もありません。

「まったくセンセイはセンス悪いんですよ。あそこで撮っても、後ろにビルが入っちゃうんだけどなあ。ねえ?」

ねえと言われても困るわけですが、妙なスイッチが入ってしまっているのか「もう写真いいんじゃないですかね」と声をかけても、ウミベさんがシャッターを押す手は止まりません。

「うん、うん、いいね」

カメラマンが「うんうん」言うときは、大抵ヤバイ状態です。みんなできれいな記念写真が撮れればオッケー♪と思っていたわたしたちの希望とは裏腹に、フォトウエディングはどんどん不穏な方向に流れていくのでありました…。

(もう少しつづきます…)

Illustrated by カピバラ舎

*この記事はウェブマガジン「どうする?over40」で2015年に掲載した連載の内容を一部アレンジして再掲載したものです。


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