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「皮膚を売った男」

原題:L'Homme qui a vendu sa peau
監督:カウテール・ベン・ハニア
制作国:チュニジア・フランス・ベルギー・スウェーデン・ドイツ・カタール・サウジアラビア
製作年・上映時間:2020年 104min
キャスト:ヤヤ・マへイニ、ディア・リアン、ケーン・デ・ボーウ、モニカ・ベルッチ、ヴィム・デルボア

 監督が2006年ヴィム・デルボア氏が発表した「TIM」という作品に触発されこの映画作品が生まれる。「TIM」を元に映画化したい旨の打診を彼に行ったところ快諾され、ヴィム・デルボア氏自身も芸術作品を守る保険屋でカメオ出演している。

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 上の写真はモデルになったティム・ステイナー氏。現在のオーナー(ドイツのアートコレクター)は15万ユーロ(2008年当時、約1900万円)で落札。
 ステイナー氏は年数回の展示会への出展のほか、死後タトゥーが彫られた部分の皮膚をオーナーに渡す契約を結んでいる。これらのことは部分的にこの映画作品に反映されている。

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 作品前半の舞台となるシリアは内戦が続き国内情勢は大変厳しい。そうした社会では第二次世界大戦時の日本もそうであったように言論統制も存在している。
 主人公サムは経済格差がある恋人アビールに列車内で「自由」「革命」の言葉を使い告白する。身分が違う彼女へのプロポーズは彼にとって言葉通りの自由を得、革命を起こすほどの画期的な意味を持つが、実社会(政府と反政府武装勢力の内戦が勃発しているシリアにおいては自由や革命を求める民衆は、国家にとっては敵と見なされる)では反逆罪に問われ捕らえられてしまう。

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 親戚、家族の手で国外に脱出はできたが、彼も、又、結果多く苦しむ難民の一人になる。難民でありながら隣国レバノンで就業しているシーンについては背景は語られない。只、ヨーロッパへ仕事を得て移住した彼女と会いたい彼にとっては身動き取れない事情は説明なくとも理解できる。
 そうした中で、サムは美術館で芸術家であるジェフリーから作品タイトルにもなっている打診(背をキャンバスとして提供)が行われる。

 芸術の自由度を問い、且つ、質しながらの展開がここから始まる。
 予算の関係でルーブル美術館が使えずベルギー王立美術館での撮影シーンは寧ろ制約も少なくライティングに時間をかけられたそうで確かに美術館のシーンはきれいな画だった。また、ベルギー王立美術館であったことで豚をモチーフにしたデルボア氏の造形物「TAPISDERMY」のカットを作品内で短いながら観ることができる。

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 サムが契約したのは本当に刺青を施す背の皮膚だけだったのか。結果としては人身売買にも触れかねない身体拘束が作品展示の際に生じている。
 作品の中でもシリア人というだけで差別的言葉を受けるシーンがある。この背がシリア人ではなく白人の背であったときもこうした単なる美術興味のみで芸術として扱えるのか疑わしい。

 コミカルなシーンも確かにありはしたが、私の中ではシリアのことを断片でしか知っていなかった思いが強く残る。
 ラスト20分が振り返ってそれまでの時間を生き生きとさせる辺りは良質のミステリーではあった。
 サム役のヤヤ・マへイニ氏は本業弁護士。演技を補うかのように彼の瞳は雄弁で印象に残る。

 人として扱われるか否かの自由、自身の体に対する自由権、芸術で許される自由の範囲。
 作品全体はサムとアビールの愛を芯に置いて描きながら重い社会派作品の形は取ってはいないがこれらの自由と難民問題が最後にはしっかりとミステリー要素を超えて印象に残った。
★★★☆

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