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伊勢物語 第82段 古典の授業内容を覚えていますか

 今回のタイトルは現役高校生は対象外、希望としては大学も卒業し既に社会人である方々への投げかけ。

 高校一年生古文の授業者は学級担任でもあったから、他の教科の教員よりも心持ち精神的な距離は近かった。
 ある時の授業で、先生は黒板の中央に在原業平の歌を書かれた。古文の授業にも拘わらずお世辞にも達筆なお方ではなく、その文字は歌の内容とは裏腹にとても元気な書体であったことも覚えている。

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 世の中に 絶えて桜の なかりせば 春の心は のどけからまし

 伊勢物語 第82段にある在原業平の歌。
 「君らは、おそらく高校を卒業し社会人になると私が教えた古文の授業内容は残念ながら、忘れる。だが、この歌だけは覚えていてくれないか。春になったら思い出して欲しいなぁ。」とおっしゃった。
 当時16歳の私はヘンなことをおっしゃる、位に受け止めていた。受験で一生懸命だった頃にそのように「忘れる」と云われても現実味がなかった。
 けれども、確かに受験用知識は大学受験が終わるとサラサラと砂が零れるように消えていった。
 再び、けれども、在原業平の歌を桜の花が綻び始めると先生の言葉と一緒に思い出している。奇跡的にも先生の言いつけを守っているのだ。
 あの同じ授業で先生の暗示にかかった生徒は何人いたのだろう。

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