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【芸術蒐集癖 Vol.1】横溝 美由紀(line M010.207.2019)

夏の想い出

夏休みになると決まって祖父母の家に送り込まれた。木造住宅専門の大工をしていた祖父と現場に行ってはカンナくずを集めたり、手伝い?邪魔?をしていた。

特別することもないのに、そこにいるのが好きだった。木材の香りや田んぼの蛙の鳴き声は、東京にいるときの日常では感じることはなかった。

大工の「墨付け」との連環

でも、今でも鮮明に覚えていることがある。「墨付け」という大工仕事だ。「墨壺」という道具を使うのだが、その道具だけは絶対に触らせて貰えなかった。だからこそ、気になって仕方なかったのだろう。(床の間には、まるでオブジェと見まごうばかりの巨大な墨壺が飾られていた。笑)

それだけではなく、墨壺からひゅるひゅるひゅると糸を引き出して、糸を引っ張ってペシン!と打ち付けると木材に見事な直線が引かれた。

木材を切ったり、つなぎ合わせたりする目印をつけるのだが、何故かそれがとても美しく見えた。そんな忘れかけていた記憶を一瞬にして思い出させてくれたのが、この作品だ。

普通に見たら「現代アート」なのに、何だかすごく懐かしく感じる。この感覚はなんだろう?と思いながら、購入した時に頂いた図録に「墨付けの要領で何本もの直線を油絵具で・・・」という解説を読んで

「あああ!あのとき、おじいちゃんがやってたペシンだ!」

と思わず「ふふふっ」と思ったと同時に惹かれて迷いなく手にした理由が分かった気がした。本当は隙間なく直線が引かれていた作品の方が赤度合い(僕は基本的に「赤」の作品を見るといてもたってもいられなくなる。。。笑)が強かったのだが、何だかこの程よい空間が良かったのは、祖父の絶妙な墨付け具合が頭に残っていたからなのかもしれない。

タイトル:line M010.207.2019(2019年/油彩)

作家:横溝 美由紀

追伸(2019.5.2)
せっかくなのでコラム名をつけてみた。アートとかコレクションという単語がちょっといやらしい感じがしたので「芸術蒐集癖」。(あまり変わらないか。。。笑)

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