カブリオレの季節
Audi Cabriolet B4 1995
正直なところ、ルーフを開け 天空と自分を接続するのに適した季節はかなり少ない。
最高と思われた春には花粉が、黄砂が、粘膜を襲う。
夏の昼間はトースターの中と同じくらい暑いので
こげぱんになる覚悟がない限り不可能だ。
一方で 秋のオープンドライブは至高の領域であることは言うまでもない。
秋晴れのためなら他の半年間を我慢してもいい。
だが私がひそかにおすすめするのは 冬 だ。
気温と太陽が低いので防寒とサングラスは必須だが、ヒーターを使えばエンジンの熱で足下から暖かい。
頭は対照的に風が通り冷やされて、まるで走る露天風呂だ。
ロードスター、カブリオレ、コンバーチブル、ドロップヘッド。
国によっていろいろ愛され方はあるが、とにかくこれは 地球を利用した、
日焼けサロンであり、
露天風呂であり、
花見の特等席であり、
ファッションアイテムであり、
旅路を共にする馬だ。
そして最大の特徴である、その運転感覚は "臨場感" などという、なんだか生ぬるい表現ではもの足りない。
タコの踊り食いのような、まさにナマの感覚だ。
飛ばせば愛馬の吐息の熱を、タイヤの匂いを、そして他の人からの視線もちらりと感じる。
カブリオレのこれらの要素は、自分が世界と繋がっていることを再認識させる。
さっきまで気にしていたことが、
この世界ではいかに小さく
どうでもいい問題だったか。
また、自分がいまどのポジションにいるのかを冷静に考える時間を作ってくれる。
地理的にも、社会的にも、時間軸としてもだ。
適した季節が少ないことが、
かえって晴れた空を一層の喜びに変える。
一生に1台でもいいから、
カブリオレを飼ってみてほしい。
もし気に入った車に出会えたら、約束する。
あなたの世界を晴れにする、と。
(文・稲川大資)
こちらの記事は オート・ブルー・ユニオン のインスタグラム掲載記事を加筆修正したものを掲載しております。
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