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午後ティーを愛しているから。

僕は午後の紅茶ミルクティー、通称『午後ティー』を愛飲している。
小学生の頃、たまたま母親が買ってきていたのを飲み、運命の出会いを果たした。
後に母親にその事を言ったのだが、そうだっけ、の一言で、どうでもいい出来事と化してしまった。
母親よ、息子の運命を忘れるでない。

30代になった今も、午後ティーへの愛を忘れず、もうそれしか飲まない、人から見れば罰ゲームなのか、と訝られる生活を送っている。
朝起きて午後ティー、運動した後も午後ティー、帰宅して午後ティー、ご飯の時も午後ティー、寝る前も午後ティー。
ラップのラの字も知らない人が作ったラップみたいになったが、それぐらい僕は午後ティーと共にいる。
僕が午後ティーなのか、午後ティーが僕なのか、もはや判然としない。
おそらく血液も茶色で、糖分まみれだと思う。

が、4年に1度ぐらいの割合で、あんなに愛していた午後ティーなのに、浮気心が芽生える時期がある。
発情期というやつだろうか。
突然、炭酸が飲みたくなるのだ。

なによ、あんな炭酸のどこがいいのよ、この泥棒飲料!
と、午後ティーの悲痛な喚き声が聞こえる。
気のせいなんかではない、午後ティーは悲しんでいる。

けれど僕も男なのだ。
たまには他の飲み物とゴクゴクしてみたい衝動に駆られるわけである。

先日も、浮気心が芽生え、ファンタの白桃を飲んだ。
友達との待ち合わせで、少し早く着いた僕は、何か飲みたくなり、魔が刺してしまったのだ。

ああ、美味い、浮気して飲む炭酸は最高だ。
そんな最低なことを思いながらゴクゴクしていると、そこに友達が現れたのである。
僕は、咄嗟にファンタの白桃をかばんに隠したが、明らかに怪しい。
怪しいという言葉が、形となって浮き出てくるのではないだろうか、と思うぐらい確実に怪しい。
まるで浮気の証拠をかくしているような心持ちになる。

待ち合わせ時間までは、まだ30分もあった。
こいつ、なんでこんな時に限って早いのだ。

これは僕のプライド的な話なのだが、僕がいついかなる時でも午後ティーを飲む、というのは、僕を知る界隈では定説になっている。
それが今は違うものを飲んでいるのだ。
僕のずっと午後ティー飲むキャラがガラガラと崩壊してしまうし、何より、「ああ、無理して飲んでいるけど、やっぱ違うの飲みたかったんだねぇ」と嘲笑われるのも癪だ。

「あ、今炭酸飲んでたよね」
「飲んでないよ」
「いやいや、見たよ。ほらほら」

かばんをまさぐろうとする友達。

「やめろ!」

この時の、「やめろ!」は修学旅行の時に日記を見られ、ふざけて笑っている友達に対して、マジなトーンで言う「やめろ!」に似ていた。

「なんだよ、飲んでたじゃん」
「飲んでなゲプぅー」
「………」
「………」

辺りは疑惑と白桃の香りに包まれた。

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