リビジョンブロッカー第2話
○中大兄皇子の館・牢屋(夜)
鎌足の手下たち、マリを牢に入れて鍵をする。ガチャン!
マリ「……」
○マトジの家・外(夜)
座っている飴野。星を眺めながら涙を拭う。
ヒマロ、隣に座る。
ヒマロ「眠れないのか?」
飴野「マトジさんの旦那さんは、星になって見守ってくれてるんだろ?」
ヒマロ「誰だって誰かに見守られてるよ」
飴野「俺は恨まれてる」
ヒマロ「恨まれるようなことしたのか?」
飴野「好きだった女の子がいたんだ」
ヒマロ「恋バナか! 聞かせろ!」
飴野「俺はその人を助けられなかった。見殺しにした。役立ずなんだ」
ヒマロ「……」
飴野「ヒマロは偉いよ。マトジさんとツグメちゃんの生活を助けてて」
ヒマロ「俺がマトジとツグメの笑顔に助けられてんだ」
飴野「……」
ヒマロ「誰もが知らず知らずのうちに周りの人に救われてる。イワオだって
誰かに救われたり救ったりしてるんだぞ。猪からマトジを守ったろ?」
飴野M「俺が守った?」
ヒマロ「マトジが無事だったから、俺とツグメは笑顔でいられるんだ。マト
ジを助けてくれてありがとな」
飴野「……ヒマロが星になったら、俺を見守ってくれるか?」
ヒマロ「俺は十四、イワオは十五。イワオが先に星になる。イワオが俺を見
守ってくれ」
飴野M「ヒマロが先だよ」
飴野「ん、見守る」
ヒマロ「さて、バイトの時間だ」
○中大兄皇子の館・牢屋(夜)
槍を持って立っている看守。
ヒマロと飴野、やって来る。
ヒマロ「お疲れ様です。交代です」
看守「新入りか?」
ヒマロ「見習いです」
飴野「ども」
看守「今日の囚人(めしゅうと)は一人だ。少ないからってサボるなよ」
看守、槍と鍵をヒマロに渡して去る。
ヒマロ「昼は野良仕事、夜は牢屋でバイト。大変だよな、生きるって」
飴野M「俺よりひとつ下なのに偉いな」
ヒマロ「このバイトのことは内緒な」
飴野「?」
ヒマロ「この牢屋は中大兄皇子の物。俺は蘇我大臣(そがのおおおみ・蘇我入
鹿のこと)の所有物。蘇我大臣の所有物が、中大兄皇子んトコでバイトし
てるなんてバレたら何されるか分かんないからな」
飴野「人間が人間の所有物なわけないだろ」
ヒマロ「イワオも誰かの所有物だろ?」
飴野「俺たち人間は誰の所有物でもない」
ヒマロ「イカれてんのか? 所有物じゃない奴なんているかよ」
飴野「いる、ここに」
ヒマロ「俺たちみたいな身分の低い奴は、みんな誰かの所有物だろ。寝ぼけ
んなよ」
飴野「寝ぼけてんのはヒマロだ」
とヒマロを見ると……
ヒマロ、立ったまま眠っている。
飴野M「寝ぼけるどころか寝てる! 見張り番なのに!」
マリの声「飴野」
飴野、声の方を見ると……
牢屋にマリが入っている。
飴野「あ! マリ!」
マリ「呼び捨て?」
飴野「そっちも呼び捨てじゃん。てか、犯罪者になったの?」
マリ「色々あって」
飴野「ダサ」
マリ「ウザ」
飴野「服もダサ」
マリ「アンタも同じ!」
飴野「ううっ……」
マリ「早くソイツから鍵を奪って、開けて」
飴野「ムリ。俺、見張りだもん」
マリ「助けに来たんじゃないの?」
飴野「マリを逃がしたらヒマロのせいになるだろ」
マリ「しょうがない」
マリ、光線銃をヒマロに向ける。
飴野「撃つな! せめて鍵を壊せ!」
マリ「歴史に残る物かも知れないから、おいそれと壊せないの。それに今は
子孫状況を調べてるだけ」
○光線銃・画面
『子孫状況0』と表示。
○中大兄皇子の館・牢屋(夜)
見張りをしている飴野と、隣で立ったまま寝ているヒマロ。
マリ、光線銃の画面を見ている。
マリ「子孫状況ゼロ。コイツのDNAは後世に存在してない」
飴野「?」
マリ「コイツの子孫は未来にいない。つまり、コイツが今ここで死んでも歴
史には何の影響もない。いてもいなくても構わないってこと」
飴野「バカ言え! ヒマロがいなくなったらマトジさんやツグメちゃんはど
うなると思ってんだ!?」
マリ「マトジ? ツグメ? 誰のことだか知らないけど、コイツを殺しても
問題ない」
と光線銃でヒマロの後頭部を狙う。
飴野「バカにすんな!」
と牢屋の隙間に手を入れて、マリから光線銃を奪う。
マリ「あ!」
飴野「ヒマロは、マトジさんは、ツグメちゃんは懸命に生きてる! 誰もが
懸命に生きてる!」
マリ「ミミズだってオケラだってアメンボだって懸命に生きてる」
飴野「歴史に影響がないからって虫ケラのように殺す? ふざけんな!」
マリ「乙巳の変を見届けないと帰れないの。入鹿暗殺が起きないと帰れない
の。アンタだって2030年に帰りたいでしょ?」
飴野「帰りたいけど……でも、誰も殺させない! ヒマロも入鹿も蝦夷も殺
させない!」
マリ「入鹿も蝦夷も!? マジでバカ!」
ヒマロ、目を覚ます。
ヒマロ「どした?」
飴野「この囚人が変なこと言うから」
ヒマロ「囚人だって人間だ、根っからの悪人じゃない。そんなに怒るな」
飴野「だな。ヒマロの言う通り根っからの悪人なんて……」
グサッ! ヒマロの胸から槍の切っ先が飛び出る。
飴野「!?」
入鹿の手下が、ヒマロの背中を槍で突き刺したのだ。
ヒマロ「……うっ」
ヒマロ、前のめりに倒れる。
飴野「ヒマロ!」
手下「蘇我大臣の護衛が捕まったとお聞きしたので、助けに参りました」
マリM「なるほど。このスーツを着てるから、私たちを入鹿の護衛だと勘違
いしてるわけか」
手下「しかし私より先に助けが来ていましたか。いやはや恐れ入った」
飴野「……ふざけんな」
手下「?」
飴野「ふざけんな!」
飴野、光線銃を男に向ける。
手下「申し訳ございません! 手柄を奪うつもりはなかったんです!」
マリ「撃つな!」
飴野「許せない」
マリ「こいつに子孫がいる場合、未来が変わっちゃうんだ!」
飴野「未来なんて関係ない」
グググ、引き金を引こうとする飴野。
マリ「へえ、虫ケラのように殺すんだ? アンタも私と変わらないじゃん」
飴野「……殺すもんか」
ヒマロを背負い、立ち去る飴野。
手下「あの方、何かあったんですかね?」
マリ「さっさと出して!」
手下「あ、はい!」
手下、マリを牢屋から出す。
マリ「さてと。蘇我大臣のところに戻ろうか」
手下「はっ!」
マリM「よし、これで潜入できる」
ニヤリと笑うマリ。
○道(深夜)
ヒマロを背負って歩いている飴野。
ヒマロ「うう……」
飴野「ヒマロ! 生きてるのか!?」
飴野、地面にヒマロを寝かせる。
ヒマロ「イワオ……」
飴野「喋らなくていい!」
ヒマロ「マトジに、伝えて、欲しいことが、あるんだ」
飴野「自分で伝えろ!」
ヒマロ「俺は……」
飴野「ダメだ!」
ヒマロ「俺はずっとマトジのことを……」
飴野「ヒマロ! 自分で伝えるんだ!」
ヒマロ「す……す……す……き」
ヒマロ、ガクリと死ぬ。
飴野「ヒマロ? ヒマロ? ヒマロぉ!」
天を仰いで涙を流す飴野。
○山(翌日・朝)
遠くに板蓋宮(いたぶきのみや)が見える。
山菜を採っているマトジ。フゥと息をついて汗を拭うと……
目の前に飴野がいる。
マトジ「イワオ……」
飴野「ご近所さんから、ここで山菜を採ってるって聞いて……」
マトジ「たくさん採れたよ」
飴野「そ、よかった」
マトジ「ヒマロは?」
飴野「家で寝てる」
マトジ「こんな時間に? 手伝ってもらおうと思ったのに」
飴野「ヒマロは手伝えないなんだ」
マトジ「風邪でもひいた?」
飴野「風邪ならよかった……」
マトジ「?」
飴野「実は、その……」
的時「まさか……」
飴野「蘇我鞍作(そがのくらつくり・蘇我入鹿のこと)の手下に……」
と握った拳が震える。
マトジ、ハッとして山菜の入ったザルを落とす。
マトジ「嘘だ!」
飴野「ごめん。守れなかった」
マトジ「慎ましやかに生きたいだけなのに、どうして叶わないんだろ? ど
うしていつも邪魔が入るんだろ? どうして……」
マトジ、涙を流す。
ツグメ、やって来て、笑顔で山菜を見せる。
ツグメ「お母さん、採れたよ!」
マトジ「うん、偉いね」
ツグメ「? 泣いてるの?」
マトジ「泣いてないよ」
マトジ、ムリに笑うが涙が止まらない。
× × ×
泣きながら走っている飴野。
飴野M「クソ! 畜生! 馬鹿野郎!」
飴野、つまずいて転んでしまう。
飴野「わっ!」
バッグから歴史の教科書が飛び出る。
ビュウと風が吹いて、パラパラと教科書がめくれる。
○教科書
ギッチリ文字が書かれている。
飴野M「! 板蓋宮で中大兄皇子と中臣鎌足が蘇我鞍作を暗殺しようとしま
したが、蘇我新皇は二人を返り討ちにして新皇(しんのう)になりました?
新皇?」
○山(朝)
教科書を見てワナワナしている飴野。
飴野M「このままだと蘇我入鹿の国になる」
○板蓋宮へ通ずる道(朝)
馬に乗っている蘇我入鹿。
護衛をしているのは大勢の手下たちと、リビジョニスト三人。
マリ、草陰から現れて、一番後ろのリビジョニスト3にチョークスリ
ーパーをする。コキッ。
ビジョニスト3、倒れて蒸発する。
マリ、サングラスを触る。
マリ「タイラ」
空中ディスプレイが現れ、タイラが映し出される。
タイラ「あ、牢屋から出れたんだ」
マリ「見りゃ分かるだろ」
タイラ「じゃ、代わりのブロッカーを送るの中止」
マリ「今の状況は?」
タイラ「ものすごーく悪いっぽいっぽい」
マリ「マジか……」
リビジョニスト1、振り返る。
リビジョニスト1「どうした?」
マリ「不審者かと思ったんですが、ウサギでした」
リビジョニスト1「早くしろ」
マリ「はい」
リビジョニスト3が落とした光線銃を拾って、護衛に加わるマリ。
蘇我入鹿、マリを見る。
入鹿「……」
マリ、顔を伏せる。
マリM「やば、バレたか?」
汗をたらすマリ。
(つづく)
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