90末~00年代中国ヲタク事情おつまみ④

漢化組・字幕組ーーいわゆるFanSub(ファンサブ)の話しをしよう。

まず大前提として、これらにヤの付くひとたちや同業者の背景はない。「組」はただ団体・グループ・チームとかそういう意味でしかない。

漢化組の「漢化」の意味は、対象を漢語(中国語)化するという意味なので、マンガ・小説(ラノベ含む)・ゲームなど翻訳対象が文字の作品の非公式翻訳チームが名乗ったり呼ばれたりされている。一方字幕組の「字幕」は読んでのごとく映像作品に字幕を付けるチームなので、アニメ・ドラマ・映画・バラエティなどの非公式翻訳チームが名乗り呼ばれる。

往年では字幕組のメンバーが日本で逮捕された、などのニュースもあったりしたためこれらの漢化組・字幕組は海賊版商人の同業者ではないか、と思われたりもするかもしれないが、実はそうではなかったりする。両者のもっとも大きな違いは簡単な話し、無断で訳した内容を商業利用するか否かである。

中国の版権関連法律に、このような項目がある。

第二十二条 在下列情况下使用作品,可以不经著作权人许可,不向其支付报酬,但应当指明作者姓名、作品名称,并且不得侵犯著作权人依照本法享有的其他权利:  
(一)为个人学习、研究或者欣赏,使用他人已经发表的作品;

簡単に訳せばこんな感じだ。

第二十二条 以下の状況において作品を使用する場合、著作権所有者の同意を得ず、報酬を支払わなくても良い。ただし、作者の氏名・作品名称を明記の上、著作権所有者の本法に則り享有するその他権利を害してはならない。
(一)個人の学習・研究・鑑賞のために、他人の公開済の作品を用いる時;

個人の(外国語及び外国文化の)学習・研究・鑑賞のためという名義で訳し、作者も作品名も明記し、商業利用は一切しない。法律の抜け穴を突いているに過ぎない、と言わればそれまでだ。さらに公開時、以下のような文章を一言加えることも多い。

仅供学习交流,严禁用于商业用途,请于下载后24小时内删除。

訳せば、

用途は学習・交流用に限定し、商業への利用を禁ずる。ダウンロードから24時間内に削除されたし。

みたいな感じだ。まぁ更なる言い訳と「こっちは勉強成果の一環として無営利で公開してるだけだから万が一保存と転用で問題を起こしてもウチらと関係ない」という責任逃れに過ぎないとも言う。

ぶっちゃけまだ権利側からガイドラインが出されていなかった頃の二次創作よりも、よっぽどぎりぎりセウトなグレーゾーンだった。昔英語のFanSubを研究する日本の論文を読んだことがあるが、研究者の人も研究にあたっての権利侵害の可能性をどうするかだいぶ悩んでおられたように見受けた。結局「自腹で円盤を購入してFanSubと同時再生する」という解決法だったと記憶している。

ではなぜ捕まったーーつまりぎりぎりで終わらず法に触れてしまった人がいたかというと、さっと情報を漁った限り、翻訳担当ではなくRaw担当の人が捕まったということらしい。Rawというのはわかりやすく言うと原作そのもののことである。訳して公開することは法に(かなりぎりぎりとはいえ)触れないかもしれないが、原作をスキャンしたり取り込んだりしてネットにアップロードすることはばりばりの違法行為である。ここらへんは例え非営利であっても言い訳の余地がない。

と、全然詳しくない法律関係の話しはここまでにしよう。完全アウトだったりぎりぎりグレーゾーンだったりするものだけではなく、完璧クリーンな今どきの漢化組・字幕組だって存在するのだから、そっちの例で紹介しようではないか。

まずは漢化組の話し。こちらのクリーンな例というと、主に三種類である。つまり、ネットマンガ・小説(二次創作含む)など無料公開されているものを、作者本人から許可を経て翻訳して再公開するパターンが一つ。同人誌や有料TRPGシナリオなどの個人販売品を、作者本人から許可を経て翻訳するパターンが一つ。こちらは翻訳の公開手段に、原文版の購入証明を提供することで翻訳文章ファイル(.txtファイルとか)のみを送るという手段と、原作者と合作して原作者のbooth・漢化組の代理タオバオショップなどで翻訳版製品を許可のもと販売する手段などがある。更には『水滸伝』にちなんで「招安」と言って、『ジャンプ』などで商業連載するマンガを正式代理配信するテンセントやビリビリ漫画などのプラットフォームにスタッフとして漢化組ごと参加することである。

一つ目はツイッターなどの有名絵師が投稿した作品のコメントで交渉している場面を見た人もいるだろう。「○○という者です。この作品を翻訳し、自国に紹介したいのですが」みたいな感じで許可を取るコメントを残したり、直接DMで似たお伺いを立てたり、ピクシブのメッセージで交渉したりなどして、無事許可をもらえれば原作者許可のスクショと共に自国SNS(大抵がWeibo)に翻訳版を公開する。見た限り、最近ではマンガを公開したらツリーに吹き出しに文字が入っていない版も直接提供してくださる作者さんもいて、英語圏などの人は直接引用リツイートで翻訳版を公開していたりする。残念ながら中国大陸からはツイッターへのアクセスが大変不便なのと主流SNSがWeiboなので同じ方法が用いれず、いちいち別SNSにアップロードしなければならないので、普段見に行かない場所はちょっと嫌だな~と思ったら断れば大丈夫だろう。

二つ目は同人誌よりTRPG、特にCoCシナリオに多く見られるように思われる。まぁマンガの同人誌は最悪読めなくても絵と一部の漢字でどうにか雰囲気掴めるし、エロは喘いでるとさえわかればなんとかなるし……提示を求められる購入証明は、実物+日時がわかるもの+個人証明(手書きのアカウント名など)だったり、電子版ならば支払い終了ページ+アカウント書き込みだったり、とにかく使い回しがきかないようにしている。さらにファイルもパスワードがかけられている場合があり、そのパスワードが同人誌の○ページ目の第○コマのセリフの○文字目と△ページ△コマの△文字目と……みたいな感じだったりする。正式に翻訳版販売レベルまで合作ができた場合はこういう回りくどいことをしなくて済むので、漢化組もだいぶ楽になるのではないだろうか。

三つ目は特に説明不要だろう。権利関係について何も心配せずに作品の翻訳に集中出来る。

字幕組もだいたい似たような感じである。二次創作の字幕と転載は少ないが全くないわけではない。さらに漢化組にないものといえばVTuber関連のものだろうか。有名VTuberにはだいたい公認で専門の字幕組がついており、生放送したものの翻訳と字幕付けはもちろん、宣伝や一部中国国内との交渉さえも手助けしてくれるしメンバーにガチ勢が多い。そして2.5次元舞台などの円盤の字幕は、こちらは無許可ではあるが漢化組の同人誌翻訳などと同じく購入証明でttsやtxtを送ってくれるなどの手段によって、自身の非営利・権利元の営利を両立させている。それでもどちらかというとグレーなのでちょっと微妙ではあるが。そしてこちらも「招安」され正式配信の字幕を付ける者がいる。

実を言うと私もこちらに参加したことがある。なかなかに大変だった。VTuberの字幕とかは自分の聴解力を頼りに全ての発言を耳コピしなければならないというのもなかなかに過酷ではあるが、正式配信作品の翻訳も一筋縄には行かない。なにせ実際に翻訳を行う時期はアニメの制作と並行で、本放送(そして本配信)のかなり前、私が担当した作品の場合は2ヶ月くらい前だったのである。そこで翻訳にあたっては映像がある訳もなく、収録声優方が手にするような脚本を元に訳していた。映像がないのでどういう場面かは頑張って想像するしかない。私が参加した作品はそこそこ歴史あるシリーズのスピンオフ続編のため雰囲気もそれなりにつかみやすかったが、これがもし完全オリジナル新作だったらさぞ大変だったと想像できる。さらにセリフが決定版ではない。手書きの修正も入っているのに、それでさえ最終版ではない。さらにみんなも聞いたことがあるかもしれないが、実際の収録時にアドリブをする声優さんだっているのだ。作品やキャラのファンとしては大歓迎だが翻訳字幕担当は泣く。担当パートが配信された後に改めて視聴した時、その後新しく追加されたセリフが入っているのに字幕がそれとズレてて、コメントで視聴者が総ツッコミをしていたこともあったが私たち字幕組は無辜であると主張したい。その後配信側に掛け合って字幕を修正してもらった。

と、なんだかんだで振り返ればファンサブは「ファン」だけで完結しないようになってきた。昔は権利元がカバーしきれなかった範囲をファンがただの熱意で支えていた部分を、今や権利元が当然のようにカバーできるようになったので、ファンが非公式に・自発的に代わりに宣伝などの役割を担うことももう必要がなくなっていくのだろう。結局多く場合、ファンサブはファンであるゆえ、好きゆえの行動なのだから、これでいいのだ。それでも熱意があるのならば、漢化組でも字幕組でも、もう非公式ではなく、認められた正当な手段で支援を行えるのだから。

ファンサブの話しで、ちょっと90s~00sから飛んで10s~20sの現状の話しになってしまった。次は戻って資訊誌の話しかな。



あと今更だけど毎日更新ではないです。始めたばかりは話したい内容が多いだけで……

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