90末~00年代中国ヲタク事情おつまみ③

※今回も引き続き海賊版の話しが出ますが、作者は海賊版を推奨する意図は欠片もありません。当時の特殊な時期においてはどうしても避けられないため、できる限り是非評価に言及せず実際にあった現象のみを述べました。版権・著作権を尊重し、買うなら絶対正規版を買うべきというのが現在の作者の考えです。※


今日はマンガの話しだ。

昔論文用に調べた時に関する記憶が確かなら、中国で初の正式版日本マンガ書籍は、『鉄腕アトム』を当時中国で主流だった「小人書」という線画や木版画の絵本のような横長形式にコマの配置とかを再組み版したものだったはず。アニメの例と同時期でこちらも私からすれば生まれる前の話しなので、中国での手塚作品出版歴も中国の「小人書」の歴史も興味があれば各々調べて欲しい。

それはそれとして私が日本マンガにはまって買ったりレンタルしたりで読んでいた90年代から00年代の話しだ。例に漏れずこちらも大まかに正規版と海賊版の二種類があった。

まず正規版はというと、90年代に多かったものはサイズは日本のものと同じくらいの製本サイズだったが、紙が結構違って単行本の厚みが大体日本のコミックス単行本のおよそ三分の一から半分しかなかった。収納面ではちょっと助かってるけど正直手触りはあまり良くなかったし、紙が薄いのでちょっと破れやすかったと記憶している。私の扱いが雑すぎたからかもしれないけど。そして00年代前後になるにつれて紙質はだいぶ改善されていった。自宅にあるものだけで言うと中国軽工業出版社と安徽少年児童出版社が連名で代理出版した『X』、連環画出版社が代理出版した『テニスの王子様』、接力出版社が代理出版した『カードキャプターさくら』などは装丁・紙質などなどほぼ日本のものと同じだった。しかし全部が全部ではなく、例えば『ドラえもん』とかは紙は脆くなくなったが厚みは薄いままだった。そして『ポケットモンスターSPECIAL』とかは厚みで言えば日本のと変わらないけど紙は手触りが別種だったりする。

中国で出版のための「版号」をもらうのは大変だが、昔知った名作や今ハマってる作品を紙の本で手元に置きたいのは全世界共通のヲタクの性だから長年に渡って出して欲しいという声が続く。なので、こういう代理出版は細く長く続いている、という状態である(帰国していないここ三年間で変化がない限り現在進行形のはず)。今(2010年代~2021現在)の主流はネット配信である。テンセント・ビリビリその他マンガ・アニメ含む「二次元」ジャンルを取り扱うサービスで、作品ごと有料だったり会員有料の読み放題だったりしたそれぞれの形式で、日本の掲載誌から正式に配信権を委ねられたマンガ作品を毎週配信している。掲載するのは過去作を購入したものは単行本版、連載中のものは雑誌掲載版である。のちに単行本が出たら差し替えたりするかな?ちょっと今追ってる作品がないのでわからない。

そして海賊版。先ほど正式版の話しでは真っ先に本のサイズに言及した理由が初期海賊版との違いである。当時の海賊版マンガはB6サイズだった。14.4cm×10.5cm、手のひらサイズ、ポケットサイズである。実際マンガとか興味ないしよく知らない親や教師はこういうマンガや小説(恋愛小説とか武侠小説とかの海賊版もこういうサイズだった)を「口袋書」(ポケット本)と呼んでいる。海賊版の出処は大きく分けて大陸以外で出版された正式の繁体字版の違法コピーの縮小本か、どこから仕入れたのか日本の雑誌そのままコピーして雑翻訳したりそのまましなかったりを束ねた縮小本だったりする。前者はともかく後者は訳しない方がまだマシという、およそ人間向けではない奇妙な漢字をさも訳文であると言った風に雑乱に組み合わせて吹き出しにぶっ込んだような訳が多々あった。正直、もし当時クトゥルフ神話についての知識があったら、もしかして海賊版マンガに偽装した邪神の魔道書ではないかと疑ったレベルである。間違いなくSANチェックものだった。悪夢に出る。出てた。

こういうものは度々警察とかに取り締まられてた。海賊版がそもそも違法だから当然である。今更補足だが前回言ったVCDの海賊版も同じく度々取り締まられていた。それでも結局完全になくならなかったのはあれだ、利益が300%を超えれば資本は道徳も法律も一切合切考慮せずそれを追うだろう(めちゃくちゃ適当なうろ覚え)とマルクス大先生も言っていたし。とにもかくにも、警察とのイタチごっこで海賊版マンガは進化した。進化?退化かもしれない。とにかく変わった。B6のポケットサイズからB5の一般書籍サイズ※ただし一ページに元々の4ページをつみ込んだもの、に変わった。これで一般書籍に擬態して個人書店の本棚にステルスできる。さらにより擬態を完璧にするために、ポケットサイズの時にはなかった出版社情報が記されるようになった。大抵の出版社名が「遠方出版社」だった。てめーらの手が届かない遥か彼方の遠方ですってよ奥さん。やだこいつらお巡りさんに喧嘩売ってるじゃんこえーよホセ。

そこからさらに変化した理由は不明だがとにかくまた変わった。擬態の効果が弱まったからかは知らないが、「四拼一」(4ページin1ページ)で画面がめちゃくちゃ潰れるのできっと読者に不評だろうだったのと、前述の日本の単行本の質に近い正式版マンガが相次ぎ出版されて、お手頃値段に加えてインクが落ちて手が黒くならないし絵の細部もはっきり見れるサイズ感と品質のコンボが効いたのではないかと個人的に疑っている。今回の変化は前述の『CCさくら』や『テニプリ』の正式代理版の出版とだいたい一致する時期だったのでそう推測しているだけなので間違ったらごめん。とりあえず今回は正式版に擬態するようになった。サイズも日本単行本サイズ(多少ブレあり)だし、厚みも紙質もやや異なるが、前述のように正式版にもここら辺で差異があるものが存在するので気づきにくいしと、とにかく奴らは二度目の擬態で再登場した。その時にはすでにそこそこ版権意識が備わった私でも、奴らが藤崎竜氏の御氏名を誤って藤崎亀と印刷していなければ危うく騙されるところだった。幸い気づいたので買わずに写メって知人に見せて共に大爆笑しただけだった。残念ながら当時の携帯は壊れて写メは残らなかった。

そんな奴らは正式版相手にも警察相手にもしぶとくあがいていたが、インターネットの普及によってあっさりとは言えないがやがて消息を絶った。残念ながら全てが正式配信版のおかげというわけでもなかった。「漢化組」という、マンガ業界の「字幕組」……のせいとは限らないのだが、だいたい取って変わられたのではないだろうか。

ということで次回は「漢化組」と「字幕組」の話しをしようかと。ちなみに中国語で「組」は日本のようなヤの付く業界のご団体のイメージはない。グループとか団体とかそういう括りに過ぎない。彼らについて文化交流視点からの研究もされているはずだから専門的な視点からの意見を見たいならそちらに当たったほうがいいだろう。キーワード「FanSub(ファンサブ)」で検索だ。

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