対象者ジャーニー

<対象者は存在するのでなく変身する>
ほとんど無意識に日常生活を送っていた人がある時突然、インタビュー調査に参加してくれとの依頼を受ける。
そこからインタビュー当日、対象者に成って参加するまでのストーリーを「対象者ジャーニー」として描いてみる。
インタビュー会場で会う対象者は生活者から少し変身しているとしてモデレーションする必要がある。
<対象者ジャーニーの準備期間>
ネットリサーチのモニターをネットやクチコミで知ってて興味を持ち「簡単そうだし、ポイントも溜まりそう」で登録する。
リクルーターの仕事をしている人から「こんな簡単で率のよい(時給が高い)バイトがあるんだけど登録してみない」と誘われて登録。
機縁法はいきなり対象者依頼のこともあるが、ほとんどはこの第一歩を踏み出さないと対象者ジャーニーは始まらない。
この期間の心理はまだ、生活者のものであり、ひまつぶし、わずかな社会参加意識、世の中を覗いて見よう、不定期なバイト、などである。
これから先のジャーニーは錯綜してくるが典型的1本道を想定する。
<情報収集期間>
ネットリサーチに回答している時、最後の画面で「座談会参加者募集」があったり、簡単なアンケート付きの参加者募集に出会う。
参加したい旨、即返信してもなかなか「当たらない」のが普通。そこで、ネットで「座談会参加」のようなキーワード検索するとブログやNOTE、
調査会社のサイトがヒットして、そこで対象者になるコツを習得しようとする。
それらは座談会参加を副業やバイトとして扱うので、1回の謝礼金額とともにどれくらいコンスタントに「当たるか」が主要テーマになる。
結論的には副業やバイトとするには継続性、安定性がないので「クジに当たる」感覚になり、世の中、クジに当たりやすい人と当たらない人の
区別はあるという現実を再認識することになる。
この期間の心理もまだ生活者のそれで対象者に転じる気配はない。とにかく一度参加したい、そうしないとお得なバイトかどうかがわからない。
<きっかけ>
ある時「参加してください」のメールが調査会社からくる。
日時、場所の指定と名前、年齢、家族構成、年収などともにある商品のひと月の購入頻度などの確認項目に返信する。
2日後に確定の電話でもう一度確認項目と個人情報とインタビューで知ったことを拡散しない約束をさせられる。
ここで初めて「私でいいのか、何を聞かれる、どう答える、何か準備は?」と疑問と不安が膨れ上がる。
ひと月に何個買うかは商品名で聞いてきたのに「食品についての座談会」と言われ、他にはどんな人が来るのか心配となってネット検索する。
商品名と調査会社名だけではテーマまでは予想できない。「特に準備はしないでください」といわれたのでまっ、いいか。と覚悟を決める。
<当日>
最寄り駅から結構遠い会場に10分前までと言われて行ったが始まるまで時間がありすぎる。
受付で名前と買った商品名を確認されたが「しつこい」、通された部屋では先に来た人がスマホを見つめていて挨拶も返さない。
こんなんでうまく会話できるのか「好かないヤツ」だ。
アンケート用紙があり、これも同じことの繰り返しの質問。
やっと司会者が入ってきて始まった。最初は個人情報など固い話で暗かったが、そのうち会場全体が明るく活発になった。
「なぜ、その製品を選んだんですか?」と聞かれたが、そんなこと考えたこともないので適当に答えた。
ホントは安かったから買ったのだと思うが、なんかただ安いだけじゃない理由があったと思う。
確か、SDGsがなんとかと言っていたと思うが、そんなことここで言い出したら笑われそうだから黙っておこう。
9時で終わるはずがまだなんか言ってる。ハイハイその通りでございます。
やっと終わって、謝礼をもらって、改めて時給換算すると悪いバイトではない。次を期待してしまう。
<対象者ジャーニーからの気づき>
・出席依頼が決まるまで、あるいは会場に来るまでは、対象者になっておらずふつうの生活者である。
・「何を聞かれる?」という疑問・不安が対象者になるきっかけである。
・初対面同士では必ず「ポジション闘争」がおこる。(これは進化心理学的に説明できる無意識で、マウントを取るとは違う)
・対象者は感じたことをそのまま話してはいない。スクリーニングしている。
・対象者発言はインタビュー会場で発生している。生活場面での発言ではない。
・対象者はモデレーターだけでなく他の出席者も意識してしゃべっている。
・時間が経つともろもろのバリアーは低くなり、自由な発言が多くなる。
・対象者は3つのアポリアを持っている。
・インタビュー時間の延長は得策ではない。


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