リサーチデータによる意志決定

マーケティングリサーチャーは自分が収集・分析したリサーチデータは企業(マネジャー)の意思決定に有効に使われていると思っているし、そのつもりで日々仕事をしている。
ところが、時々、「リサーチデータで意思決定したら大失敗、リサーチは使えない」との声が聞かれる。                     リサーチは使えない、リサーチデータに基づいた施策は大失敗だった。などの声の多くは大手企業のトップマネジメントの発言として伝わる。
トップは、新製品や新しい広告が予定の成果を上げられなかった時に社外に向けてこういった発言をするようである。
失敗の判断があったとき、トップは社内の担当部門に「なぜか?失敗の原因は何か?」と問うていて、担当が「イヤ、リサーチではうまくいくという結果が出てたんですが(ポリポリ)」と言い訳する場面が想像できる。
それが「そんな役に立たないリサーチなんて止めてしまえ」とのトップの怒りとなり、社内ではなく社外(リサーチ会社)に向けた発言になる。
ところが、社内的に今後リサーチ予算は縮小します、とか意思決定にリサーチデータは使いません、と言った方針が出た例は皆無であり、それらの企業は相変わらず膨大なリサーチ投資を行っている。

クライアントの社内事情はしかたないとして、リサーチャー側からこういった状況を避ける方策を考える。                    使いえないリサーチデータとの批判はニーズ探索でのジャンルセグメントの齟齬と購入意向の閾値の採用が大きな原因である。
ファーストフードの新メニューの探索のテーマで具体的に考える。

このジャンルにもエクストリームユーザーと通常のユーザーがいる。通常ユーザーの多くはこれらをジャンクフードと認識し、「今回だけは、たまにはいい」という言い訳心理の中で「健康によくないよな」とのマイナス心理をも飲み込んで食べることに一種、醍醐味を感じている。
ここで新メニューのニーズ探索を考えると、エクストリームユーザーは当該市場の変化(新製品)に無関心だから放置しておいてよい。通常ユーザーはジャンクフードのマイナス面を隠す意識が働き、「健康とか栄養価」をニーズとして挙げることが多い。 
「健康を考慮した新メニュー」をコンセプト評価調査にかけると、エクストリームユーザーは「余計なお世話」で終わるが、通常ユーザーは「食品として当然」のコンセプトと受け取り、一定程度の評価は得られる。ジャンクフードらしくないとの評価は隠されてしまう。
評価調査の結果を受けて、通常ユーザーをターゲットに市場導入する。
ところが、新メニューは「健康によくないよな」とのマイナス心理をも飲み込んで食べる醍醐味を失ってしまっている。
つまり、ジャンクフードの愛すべき高揚感を奪う新製品になってしまっている。これがジャンル齟齬である。
ジャンル齟齬を起こすキーワードとして健康の他にSDGs、サステナブル、リサイクル、などがあげられる。

 購入意向など重要な指標には各社独自の閾値があり、閾値の運用が社内政治で揺れ動くことでリサーチデータが殺されることがある。例えば、本年度の事業計画に売上10億の新製品発売との項目があって相応のアイディアがないとき、閾値の最低ラインが恣意的に動かされ、リサーチ結果が捏造に近い形で解釈されることがある。
閾値も消費者意識や市場環境などの外部要因の影響を受けるのでわずかながら変化していく。最近はモデル化も含めて研究がされているが、現在の成熟市場で元データに」になる新製品が少ない状況も閾値(新製品発売モデル)の精度があげられない原因になっている。

外部リサーチャーに閾値は公開しないので難しいが、閾値の構造化を含んだ調査設計を提案していくのが我々リサーチャーの任務であろう。  


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