自己紹介はいらない

前回はイントロダクションのやり方を述べた。そのときモデレーターの自己紹介に少しふれた。
今回は対象者の自己紹介を考える。FGIではほぼ自動的に自己紹介をするが、これの期待効果は何か。
<FGIの対象者同士の自己紹介はいらないと言われた>
イントロダクションの最後に「皆さん、始めて顔をあわせた方たちですのでお一人づつ簡単な自己紹介をお願いします」と進めるのがFGIの常識、慣習になっている。
一度だけ外資のクライアントから「自己紹介など無駄な時間。自己紹介なしで本題に入れ」と要求された。その理由は、「家族構成などの属性はリクルーティングシートでわかっている。自己紹介で話されることはテーマに関係ないことがほとんど。対象者の趣味に我々は関心がない」さらに、「自己紹介なしでは話しづらいと言うが、数人での座談会に出席することを了承してきているのだから、しゃべることが仕事と思っているはずで、互いの名前は名札で確認できる。」というものだった。
しごくごもっともで、その通り実施したが、問題なく進行した。
ところが他のクライアントは「いきなり、テーマにはいると対象者がびっくりしますよ」ということで、自己紹介させられている。
<自己紹介とはなにか?>
既存の集団に新規加入する1人、あるいは数人は加入のとき自己紹介をさせられる。この自己紹介は片務的で既存集団からはリーダーの自己紹介だけでメンバー全員の自己紹介はない。既存集団がマジカルナンバー以下の少数なら双方の自己紹介がされることが多い。
こういった新規加入の自己紹介は自分の属性だけでなく、集団での役割決意の発言も要求され、これがないとメンバーシップが得られないリスクがある。
FGIは一時的に作られたすぐに消える集団のメンバー紹介なので、軽いものでその集団の目的意識を共有するという機能は期待されていない。
したがって、対象者同士の自己紹介は、前号で述べたラポール形成力はなく、アイスブレイク機能も弱いものになる。
<自己紹介の話法>
「おひとりずつ自己紹介をお願いします。お名前と、同居しているご家族と最寄り駅を教えてください」が一般消費者の定型である。
テーマと関係がありそうなら仕事内容(会社名は言わせない)も聞くことがある。対象者にしてみると「えっ、それだけ?」と不満がある程度でよい。しゃべらせてはいけないこととして「趣味、はまっていること、最近の気づき」などがある。これらの話題は、対象者を無意識のマウント取り、笑い取りに追い込みやすく、自己主張が強くなってラポール形成に逆行することになる。
<盛り上がらなさと自己紹介の関係>
同じテーマで数グループFGIを実施すると、イントロから最後までどうにも盛り上がらないグループがひとつだけあるという体験を多くのモデレーターが持っているはずである。
その対策として「他個紹介」やゲームを取り入れた自己紹介をトライしてみたが効果はないか極めて弱かった。
同じ仕様でリクルーティングし、同じインタビューをしているのになぜ、これほど活性化(盛上がり)に差ができるのかは分析できないし、理解もできない。
ただ、オカルト的な仮説ならある。エビデンスはないし因果分析する方法もないが、それは、対象者の中に「盛上げないオーラをだす人」が必ず1人、2人いる。という仮説である。
意図的には見えないし、それほど影響力を発揮することもないのに本人だけでなくグループ全体を不活性化させるオーラを出しているのである。
最近、始まる前にそういう人が「いるな」という直感は得られるようになったが対策はない。


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