定性分析のやりかたⅡ

FGI終了後はデブリーフィングを必ず実施する。毎回やるのがよいが、ひとつのプロジェクトの最終グループ終了後は必ず実施する。
このデブリーフィングにはモデレーターを必ず出席させるし、モデレーターは必ず出席する。これはデフォルトにすべきである。
<デブリーフィングは混沌をめざす>
デブリーフィングはプロジェクトリーダー(クライアント)かモデレーターが中心になって進行する。
デブリーフィングの目的は今、終わったインタビューの「結果分析やまとめ」であると考えるのは大いなる誤解である。
前に述べたように、インタビュー中はモデレーターにも観察者にもいろいろな直感が湧き上がる。消えてしまうものも多いがデブリーフィングまで残る、思い出せる直感は多数ある。この論理化もストーリー化もされていない直感、思いつきを参加メンバー全員から吐き出してもらい、場を新たな混乱に陥れるのがデブリーフィングの第一の目的である。
予定調和を無視した対象者の自由な発言でメンバーの脳、感覚は興奮状態にある。その興奮をマーケティングの論理で鎮静させずに引き出す。会社の会議では出ないような発言、発想を言語化させて有意義な混沌を生み出すのである。
「まとまっていなくていい、矛盾していても構わないから、とにかく感じたことを各自発表して欲しい」が最初であり、「印象に残った発言は?」が次に来る。ここではリーダーもモデレーターもまとめよう、結論を出そうという意識は捨てる。
<モデレーターのデブリーフィング活用法>
インタビュー終了時、モデレーターの頭の中は数々の直感、発見によって沸騰している(はずである)。このままデブリーフィングに参加すると「何を言い出すかわからない」危険があるので少し冷ますが、冷まし過ぎないことが大切。
デブリーフィングでは他のメンバーの発言(直感、発見)を自分の感覚で咀嚼しながら聞く。自分の感覚は対象者と場を共有したことによるバイアスがあり、鏡1枚隔てた人たちの感覚とは違うことを意識する。
生活者発想・感覚とマーケティング発想・感覚とが混交する瞬間であり、モデレーターの直感をマーケティング的に再考することで分析・報告の方向性を探る。定性分析には生活者感覚とマーケター意識とこのの対話が必須で、ひとりで発言録を読み込むだけでは不完全、非効率な分析になる。
以上がデブリーフィングの第二の目的であり、定性分析のヤマ場である。
メンバーの発言は、当のクライアントの文脈の中で語られるものとその人固有の個性的直感とに分ける。前者は分析レポートのタイムリーさ、正統性の演出に役立て、後者はモデレーターの直感と合わせてレポートの発見性(新規性)の要素に使える。
そして、モデレーター本人の直感も披露する。このときはデブリーフィングの雰囲気に忖度する必要はない。
デブリーフィングと分析レポートの文脈は大きく乖離していてよいのである。
<デブリーフィングの政治学>
デブリーフィングの発言は自由で新鮮であるが、必然的にポジショントークになる。プロジェクト内、会社内の政治が背景から浮かんでくる。
そこでマネージャークラスの人の発言は最後にしてもらう。最初に発言されると他のメンバーの発言を圧迫する。
この政治的状況を把握しておくと最終レポートの提言・提案の記述の精度を上げられる。
インタビューフローの確認変更もデブリーフィングの機能だが、最初に話すと単なる反省会になってしまう。しかも、これは分析には役立たない。


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