モデレーター話法

現在、「定性調査を哲学する」をかかげてマーケティングインタビューの体系化をはかっている。
インタビュー対象者の人数での特性、背景科学による個性、話法の体系化を3つの柱に考えている。
まず、「聞き出す」と「発言間(行間)解釈」をキーにモデレーター話法を体系化したい。
<定性調査のモデレーターに期待されること>
モデレーターは対象者自身のマーケティング活動への印象、評価を引き出す(聞き出す)を期待されている。聞き出すことは簡単ではないので対象者発言の「行間が読める」会話を続けることを期待されている。
発言を強制、誘導せずに、対象者とマーケティング施策(製品、価格、プロモーション、購入場所)の関係性(認知、購入・使用、再使用)と個人の評価(好き嫌い)の発言を引き出す。
さらに対象者の発言は多義的、文脈依存的、複雑・輻輳的であるとの認識のもと、発言の行間が読めるよう会話を続ける。
<あくまでもマーケティングのインタビューである>
有名人の人柄や仕事内容を本人に語ってもらうという趣旨のインタビューはあふれている。(徹子の部屋、他)
広くは精神分析医、学校の先生、上司、などと行う面談、面接もインタビューである。
これらとマーケティングインタビューが大きく異なるのはテーマがマーケティングということである。マーケティングはひとりひとり個人も相手にするが、基本的には集団の振舞いを扱っている。1on1インタビューでも対象者ひとりの先に集団を想定しながらモデレーションする。
だから、1on1インタビューであっても個人のトラウマや性格は無視しなくてはならない。1on1インタビューを実施しているとき、途中で思わぬ告白に遭遇することがあるが適度にかわすのもテクニックでる。
集団を扱っているからと言って「あなたのような意見・考えの人は大勢いますか?」などの質問はナンセンスである。
ひとりの認知が集団にまで拡大できるかの判断は分析のとき、モデレーターが行う。
<対象者は回答マシーンではない>
聞き出すというとき、聞き出されるモノがすでに存在することを前提とすることが多い。
対象者があらかじめ「回答の束」を持って会場に来るとモデレーターは考えてしまう。あとは聞けば回答が得られると簡単に考えてしまう。
実際の対象者は、何を聞かれるか不安を抱えてインタビュー会場にやってくる。準備しようにも就職面接のようにハウツウものもない。
そして、聞かれる内容は「先週買ったアイスクリームを選んだ理由は?」など「はっ?何いってんの!」と意表をつかれるものが多い。
「そんなもん知らんわ!考えたこともない」、そこで始めて回答を考え出す。
こういう状況の回答に、軽いウソ、合理化、辻褄合わせなどの編集、脚色が交じるのは当然である。
モデレーターは「なぜ?、どうして?、どこから?」とプローブを連発したがるが逆効果である。(No.62「何故は禁句か?」参照)
多方向から質問を繰り返して、発言と発言の行間を読み込んで真実・事実にたどり着く方法をモデレーターはマスターしないといけない。
なお、専門家が対象の場合はこの配慮はいらないが、稚拙な質問をすると「だから素人は」という反発を生んでしまう。   

定性調査に関わる人へのお勧め本2冊
『アクティブ・インタビュー』ジェイムズ・ホルスタイン ジェイバー・グブリアム2002
『インタビュー調査法の基礎』グラント・マクラッケン2022 


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