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七月がくると

七月がくると
深い水底から
昏い影がよみがえる

あれから
まだ二年しかたっていないのに
遠い昔のことのように思えるのは
なぜなんだろう

最後に顔を見たのが
四半世紀も前だからかな
それからは同じ写真の顔を
ときおり新聞で見るだけだった

あのときのまま
もう亡くなった人のように
彼らは私のなかで歳をとらなかった

平成が終わる前に
オリンピックの前に
そういう話が伝わってきて

あの年の七月のひと月のうちに
13人は処刑された

7人は七月六日
6人は七月二十六日

あとの6人は
7人の死刑執行を知っていて
「次は、自分だ」
きっと、そう思いながら
朝を迎えていただろう
(ちゃんと眠れていたんだろうか)

耳を澄まして
今日やって来るかもしれない
死刑執行人の遠い足音を
聴き取ろうとしたかもしれない

ドアが開いて
「出るんだ」
そう言われる瞬間を

冷酷に刻まれていく
残された時間のなかで
あなたはなにを考え
だれを思ったんだろう

あなたたちの罪はただひとつ
信じたこと

そんな羽目になるような
いったいなにを信じたんだ
麻原彰晃を?
オウムを?
修行を?

自己を超えること
他のために生きること
そして
新しい世界のはじまりを

それなら私も同罪だ
死刑執行人が呼びに来るのは
あなたたちだけじゃない

二十三年におよぶ
わずか三畳の独房生活
もし私が死刑囚だったらと
何度も想像したよ

あなたに聞きたかった
なにを考え
だれを思ったのか

目隠しをされ
後ろ手に手錠をかけられ
刑場に立って
首に縄をかけられる

そのとき
私はなにを考え
だれを思うだろう

あの七月を思うと
太い縄のざらっとした感触が
首すじをなでる
(シヴァ神の首に巻きついた蛇のよう)

あなたはなにを思ったのだろう

足元の床が落ちる
その刹那

そして
はじまった令和の時代
台風、水害、疫病
復興五輪はどうなることやら

平成が終わる前に
オリンピックの前に
そういって大量処刑した
この国の凄まじい暴力

オウム真理教の暴力と
どこがどう違うというのだろう



2020.07.01



※日本の死刑はいつ執行されるか当日のそのときまでわからない。
本人にも、家族にも友人にも弁護士にも、だれにも告知されず突然やってくる。

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