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ローナ・ハートナーとチャボロ・シュミット

ギター倉庫にはジモティーで譲り受けた40インチのアクオスが設置されている。TVのアンテナは繋がっていないのだがfire stickを取り付けたので映画やyoutubeを見られる。

「ガッジョ・ディーロ」という映画、昔から存在は知っていたが初めて観た。ジプシー映画の巨匠トニー・ガトロフ監督の1997年の作品。

あるロマの村に迷い込んだフランス人の青年が主人公。彼のお父さんが残したテープにあったアナ・ミラというロマの歌手を探してロマの村を彷徨っている。その村で出会った老人は自分の息子が濡れ衣を着せられて警察に捕まって嘆き悲しんでいる。しかし青年のことが気に入りアナ・ミラ探しに手を貸してくれる。老人はロマの楽団のバイオリン弾きで、青年はその楽団にいる踊り子(ローナ・ハートナー)に惹かれていく。このローナ・ハートナーの存在がこの映画の最大の魅力になっている。演技も歌も踊りも素晴らしい、本当に。言い方はよくないが原始時代から抜け出してきたような野性味、素朴さ。全裸で林のなかを全力疾走するシーンは圧巻。彼女は有名な歌手だそうで、youtubeで検索するとたくさん動画が出てくる。

映画のラストは、老人の息子がせっかく釈放されて帰ってきたのに、自分を陥れた村の住人に意図せず仕返しをしてしまい、その報復にロマの村が焼き払われ息子も殺される。嘆き悲しむ父親と踊り子。主人公の青年は絶望の末にロマの音楽を録りためたカセットテープを地面に穴をほって埋めてしまい、その穴の前で踊りだす。それを遠くから眺めるローナ・ハートナーの一瞬の笑顔で映画は終わる。この笑顔で最後に少しだけ救われたような気がするのだ。

ガトロフ監督は「ラッチョドローム」にしろ「僕のスウィング」にしろ、わかりやすいストーリーと演出、そして素晴らしい音楽が魅力なんだけれど、何はともあれメッセージとしてはこのロマに対する「偏見と差別」への徹底した抗議に尽きる。

焼津市民文化会館というところで「僕のスウィング」にも出ている名ギタリスト、チャボロ・シュミットのライブを観に行ったことがある。プランクトンさんのホームページを見ると2003年だろうか。印象的だったのはライブの最後に出演メンバー全員で手を繋いでステージに立ちチャボロ・シュミットがスピーチをした。曰く、僕らロマは長い年月差別に晒されてきた。それがどんなに辛いことだったか。差別というものをこの世から無くしたい。ぜひここにいる皆さんにも協力してほしい、と。あの不真面目そうに見える彼がものすごく真剣に話をしたのが記憶に残っている。

最近アイヌの本を読む機会があったが、明治以降の北海道におけるアイヌ民族に対する日本人の仕打ちは本当に酷いものであったようだ。沖縄でも同じようなことがあっただろう。今だってそうだ。ひろゆきやそのフォロワーにこの映画を見せて感想を聞きたい。

さて、そのチャボロ・シュミットはフランス生まれのロマのギタリストである。ジャンゴ・ラインハルトというギタリストが有名だが、ジプシーギターとか、マヌーシュスウィングとか言われる音楽スタイルだ。おそらくこの人のギターがダントツじゃないかと思っている。とにかくその過剰なまでの音数の多さ、独創的なリズムのカッティング、同じようなスタイルの曲が多くて歌も無いのに全く飽きさせないその音楽的な引き出しの多さ。ロマの音楽一家に生まれ、6歳でギターを始め、15歳で自分のバンドを持っていたそうだ。こんなギターが弾けたらどんなに楽しいだろう、と思う。

こんな感じ。

「黒い瞳」画像、音質が悪いが演奏がすごい。

これは勝手に思っていることなのだけど、アコースティックギターというのは比較的音が小さく、特に単音でメロディーを弾いても他の楽器に負けてしまう。だからかきむしるように強くピッキングしてはっきりとした大きな音を出すあのスタイルが生まれたのではないか、と。ギターはマカフェリタイプと言われる鉄弦ギターで、このスタイルの音楽に特化されたギターだ。日本でもこのジャンルのファンが多いらしく、見ることが多い。いつか自分の店でも扱ってみたい。

そういえば思い出したが、知り合いが焼津の楽器屋に勤めていて、当時来日したチャボロ・シュミットがギターの弦を忘れたらしく買いに来た、という話を聞いたことがある。一番安い弦を買って行ったそうだ。

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