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ジョナサン・リッチマンに首ったけ

「メリーに首ったけ」という映画を観ただろうか。
キャメロン・ディアス演じるメリーを巡ってベン・ステイラーとマット・ディロンが繰り広げるドタバタコメディである。1998年の制作でキャメロン・ディアスの出世作だという。この映画がヒットしたおかげで、彼女は2000年にチャーリーズエンジェルの役を射止めて大スターとなる。この映画、1億ドルの大ヒットとのことだが、結構どぎついブラックコメディである。まだ付き合い始めの彼女と一緒に観に行くにしては厳しいかもしれない。

今ディズニープラスで観られるようだ。別料金だから僕には観れないが。

この予告編には全然出てこないが、この映画の音楽を担当し、本編でも重要な役割で登場しているのがジョナサン・リッチマンである。ちょっと気が利いたパンクロック好きだったら当然知っているミュージシャンだったが、一般的にはほとんど知られていなかったと思う。きっとそれは日本だけの話ではなく、アメリカにおいても似たようなものだったのではないか。
話の節々で、ギターを持って登場し、観客に向かって語りかけ、ワンフレーズ歌を歌う。普通に考えて、この映画にどうしても必要だと判断されて呼ばれたのではなく、単純に監督のファレリー兄弟がジョナサンの大ファンだっただけなのではないか、と推測する。
ちなみにファレリー兄弟はジム・キャリーの映画を多く撮っていて、黒人ピアニストについてのコメディではない映画「グリーンブック」も弟のピーター・ファレリーの監督である。

ジョナサンはこの映画の主題歌”There's Something About Mary Song” も歌っているんだな。

とにかく、そんな超メジャーなハリウッド映画に登場する、などということは元々レコードを聞いていた僕らにとって驚きであった。ジョナサン・リッチマン&モダン・ラヴァーズといえば、育ちの良いお嬢さんなどは聞いていけないと言われるアンダーグラウンドバンドであり、ラウンジリザーズとかノーニューヨークとかちょっとアートっぽいものにかぶれた不良たちが憧れるニューヨークのパンクロックバンドだったのだから。

いつだったか来日公演を観た記憶がある。印象的だったのは、ギターを持って登場したジョナサンが歌い出すのだが、マイクが無い、エレキはコードが繋がってない。そんなに小さな会場では無いのだが、みんなちんまりと耳をそば立てて聞いている。そのうち、ギターをステージの床に置いて、踊りながらアカペラで歌い出したのだ。当然マイク無し。ああ、常識を覆すというのはこういうことを言うのか、こういうのが本物のパンクなのか、と思った。甲本ヒロトも観にきていた。

1995年のものらしい。3年振りとあるので92年にもきているのか。観たのはどちらか。

経歴を見ると、すごく長く活動をしてきたことがわかる。
1951年ボストン生まれ。1970年にジェリー・ハリスン(後にトーキング・ヘッズ)、デヴィッド・ロビンソン(後にカーズ)らとモダン・ラヴァーを結成。
代表曲「ロードランナー」は1972年の録音だという。PVは当時のものなのか、それとも後付けなのか、はわからない。でもひたすら走る車からの映像がかっこいい。

この曲の感じを聞いてもわかると思うが、ジョナサン・リッチマンはベルベット・アンダーグラウンドの大ファンである。「ベルベット・アンダーグラウンド」(1992年「アイ・ジョナサン」所収)という曲を作ってしまったくらいだ。こちらは当時のライブ動画だが、曲の途中 ”Like this!” と叫んで曲調が変わり、そこからモノマネである。それくらい好きなのだ。

とはいえ、ベルベッツの1stアルバムは1967年である。4枚目のローデッドが1970年だから、そんなに年代が離れていない。リアルタイムでファンだったということがわかる。

ここでくだらないことかもしれないが、年齢を比較してみたい。
ジョナサン・リッチマンは前述の通り1951年生まれ
ルー・リード、ジョン・ケイルはどちらも1942年、だから尊敬するお兄さん達、という位置付けであろう。

一方でニューヨークパンクの面々と比較するとほぼ同級生のようなものだ。
デボラ・ハリー 1945年
パティ・スミス 1946年
トム・バーレイン1949年
リチャード・ヘル 1949年
ジョニーサンダース 1952年
デビット・バーン 1952年

モダン・ラヴァーズはそれでも19年もの間活動し、1989年に解散している。その後はソロとしての活動となる。実は僕はジョナサン・リッチマンのファンと言っても、ソロになってからのアルバムばかり聞いている。モダン・ラヴァーズの19年間についてはあまりよく知らない。今後少し掘り下げてみよう。

しかしこのアルバムだけは持っていてよく聞いていた。なんと1976年のアルバムなのだ。76年というとまだセックス・ピストルズの「勝手にしやがれ」が発売される前。

こちらはフランスのテレビ番組に出た時の映像。1882年。なんか周りに草が沢山生えているのだがなんだろう。ちょっと怪しい感じもするが。

こちらは1987年の映像。バンドメンバーのおじさんがかっこいい。

こちらは僕が大好きな、”Just Because I'm Irish”という曲。1995年のアルバム ”You Must Ask the Heart” に入っている。ちなみに一緒に歌っている女性はジュリア・スウィーニーというアイリッシュ系アメリカ人の女優、コメディアン、作家でタランティーノの映画などにも出演しているそうだ。

あまりに面白いから訳文を載せる。単純に面白いというのは違う、ウィットが効いている。ジョナサンらしい。

・・・・・
「私がアイリッシュだからって♪」

私がアイルランド人だからといって、
彼は私がマンハッタン中のアイリッシュ・バーを知っているはずだという
彼が生まれたゴールウェイ湾のあたりは
ここアメリカよりも社交的だからかしら

私がアイルランド人だからといって、
私の名前がスウィーニーだからと言って、
全てのアイリッシュ・バーを知っているわけはないわ
煙いし暗くて好きじゃないの
セントラルパークの方がずっといいわ

“ねえジュリア、リアリーズ・パブへ行った事はある?
ブロードウェイの14番地を下ったところ”
“いいえ ないわ”
“8丁目のレーガンズには?”
“行ったことない”
“イースト・ヴィレッジにあるドゥリーズは?”
“いいえ、ごめんなさい”
“ニューヨークには何年住んでるの?”

私がアイルランド人だから、
ソーホー以北のアイリッシュ・バーを全部知っているはずと思われる
彼が生まれたクレアやコークは、
慌ただしいニューヨークなんかより社交的だからかしら

私がアイルランド人だから、彼は知っているはずだという
微笑みかたがアイルランド式だからといって、
全てのアイリッシュ・バーを知っているわけじゃない
ここニューヨークのミッドタウンでは
私はセントラルパークで見かけることが多いはずよ

確かに彼女はセントラルパークで見かけることが多い
・・・・・

最近彼はどうしているのだろう。そういえばベルベット・アンダーグラウンドのドキュメンタリーでインタビューされている彼を観た記憶がある。相当老けていた。当然だろう、今年で71歳だ。調べると、2021年にアルバムも出している。

こちらは2022年の映像のようだが、ライブも変わりない。元気にやっているようだ。素晴らしい。相変わらず、ロウファイで、DIYで、下手うまで、ゴキゲンな感じだ。70歳だからって関係ないのだ。やり続けるのだ。

最後にギターの話。モダン・ラヴァーズ時代はフルアコを弾いていることが多かったが、ソロになってからはスパニッシュ・ギターを手にしていることが多い。この動画でも"Guitar Solo"というサンフランシスコのアコースティックギターショップに立ち寄って、スパニッシュギターを弾いている。なかなか上手いじゃないか!


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