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「ホールケーキを3等分して下さい」

と言われたら、普通の人はどうやって切るだろうか?2等分や4等分のように、端から端まで一直線に切り分けることはできないので、道具を使わず正確に切るのは難しいかもしれない。しかし多くの人は、中心角が120°程度になるように目分量で切り分けるだろう。それは、各自が「3等分しろ」と言われた際のマニュアルを持っているわけではなく、指令に対して臨機応変に対応した結果だ。

ところが、どこまで考えてもケーキを3等分できない人もいるという。そんな人々に焦点を当てて、軽度な知的障害と少年犯罪の相関性を探ったのが以下の本である。

自分は、ワイドショーで未成年凶悪犯の生い立ちや家庭環境が取り上げられているのを見るたびに、「犯罪者の思考特性は後天的に形成されたものなのだな」と思ってきた。ところが、その考え方は大いに誤解であると著者は指摘している。何故ならば、後天的に形成されたはずの思考特性は、少年院や鑑別所といった施設で全く矯正できておらず、再犯を防ぐに至っていないという結果が出ているからである。

そこで著者は、非行少年たちに対して知能テストを行い、そもそも更生を行うための基礎能力があるのかをチェックした。そしてテストの結果、多くの非行少年に軽度の知的障害が見られることを確認したのである。これは目から鱗だったのだが、重度の障害者であれば早期から支援を受けられるが、軽度であるが故に日常生活では認知能力の欠如を発見されず、彼らは重大な事件に至るまで放置され続けているというのだ。

読んでいて特に興味深かったのは、そのような前兆を持った少年たちをどのように学校で軌道修正してやるかという話だ。著者が具体案を尋ねると、多くの教員が「子供の良いところを見つけて褒める」と言うらしいのだが、そもそもこれがナンセンスだと著者は切り捨てている。誤解を恐れずに言うと、そのような知的障害を持った子が本当に褒めるべきところを持っているケースが少なく、一時的な自信を持たせても根本的な解決になっていないからだと言う。身も蓋もないように聞こえるが。

では、具体的にどうしたらいいのか。著者は、少年たちに認知能力トレーニングを行うとともに、正しい自己分析をさせることが大切だと述べている。非行に走る少年は、認知能力の欠如故に等身大の自分を認識できておらず、過度な自尊心もしくは自己卑下に押しつぶされているケースが多いのだとか。これは、非行に走っていない自分にもかなり耳の痛い話だった。自分の場合は後者で、成功体験の少なさと自己肯定感の低さが人生の満足度を下げてきたような自覚がある。正しく自己分析できていれば、新たに成功する自分を発見することだってできるだろうし、失敗する自分に対して過度に失望することもなくなるのだろう。

著者は無理に少年たちの自己肯定感を上げさせるようなことはしなくていいと言う。大事なのは、自分のキャパシティを正確に把握し、理想と現状のギャップへ抱く負の感情を減らすこと。これは、軽度の知的障害を持っている人に限らず、自分の在り方について悩む全ての人に当てはまる話だと思う。

ということで、180ページと分量は少なめだったが、得るものがある本だった。この視点を持っていれば、今後未成年凶悪犯罪への見方も変わるだろう。非行少年の動機を理解するためには、まず非行少年自身を理解しなければいけないのだ。

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