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セリーグ制覇の瞬間に立ち会った話

業界用語でセリーグはセクハラ。パリーグはパワハラ。
パワハラは「指導に熱が入る余り…」という言い訳が通る余地があるようだが、セクハラは助からない場合が多い。
ただ、偉い人のセクハラは黙認されるケースも多く見た。出世欲で許容してしまうのだろうか。

さて、銀行員は何かにつけて飲みに行く。
全国転勤も頻繁な為に、単身赴任者も多い。課長以上の経営職階も、異動して空いたポジションに昇格して収まる、なんて話はザラだ。
そういう人たちは勿論同期が周りにいるわけでも無く、地元でも無い。
家(単身寮)に帰るとヒマで寂しい。
だから、常日頃から飲みに行くネタを探している。

その日のネタは大口成約だった。
大口の成約があると、とりあえずお祝いをする。
個人的には、善き文化だと思う。自分の仕事が認められることはとても大事だ。
その日の主役は私だった。しかし週初。週初から飲み会は基本的に好まれない。
一次会でほとんどの人が帰る中、後輩の女子が気を利かせて「カラオケに行きましょう」と言ってくれた。
私がカラオケ好きだから。
二次会で何人かでカラオケに行った。気を遣わせて悪いな…と思う一方で、掛値無しにとても嬉しかった。
盛大に盛り上がり、解散した。
翌日「昨日はありがとうございました」と言葉をかけあい、精算もけっこう多めに出した。
気を利かせてくれた女子にも「成約した甲斐があった。ありがとう。」と御礼をした。 その子からの「ええ」との返答に明らかな違和感。
どうした?
「体調悪いのか?任せて、帰ったら?」と言ってみる。
そしたら「ありがとうございます…」と返ってきた。
その後、応接で女の先輩と話したり、支店長室で支店長と話してた様子だった。体調悪いのかな?大変だな。
ほどなく「お先に失礼します」と、やはり体調不良で早帰り。
ちょっと心配だったし、気を遣ってもらった結果で心苦しかった。

翌々日、1人若手の男が支店に来なくなった。どうやら病気らしかった。ほんの一昨日、一緒に飲んで騒いでいたのに病気とは、可哀想に。
人生何が起こるか分からんな…と非常に憂鬱な気持ちになった。
その日、おもむろに支店長に、支店長室じゃないところに呼び出された。
何で?

呼び出されたところに行くと「一昨日の二次会、どんな感じだった?」とのこと。
なぜそんなことを聞くんだろう?と訝しんでいると「今から言うことは決して他言してはならない。」と支店長。
俺は何か大変なことをしてしまった。無自覚に。しかし何なのだろう?分からない。息をのんで次の言葉を待つ。
「実はセクハラの告発があった。それで今実態の調査をしている。記憶の限り状況を話してくれ」と支店長が言った。
は?
そういえば、後輩の男女が隣合っていて、パッと見「近いな」と感じていた。まあしかし若者同士、注意するほどのことでもあるまい、と思っていた。
そういえば、男の子が女の子の膝に手を置いていたような記憶も…だがそんなことになっているとは。二人は仲良さそうに見えたし…いや、これ俺のせいじゃね??など、色んな考えが頭の中をぐるぐる回ってた。
うろ覚えの状況を支店長に伝えた後、何事も無かったように席に戻ることと「本人証言と大きく異なることは無い。明日人事部に行ってもらうから、今と同じように説明して。」との指示を賜った。

支店長面談の翌日くらいに人事部からの実態調査があった。
アホみたいに「いや、誘った私の責任ですね、申し訳ありません」と言ってみるも「いやそういう話では無い」とピシャリ。
逃げ道が無い実態調査だった。
カラオケボックスの中で行き過ぎたスキンシップがあり、それを嫌がった女の子がセクハラを訴えた。
紛れもないセクハラ事案で、情状酌量などという考えは無い。 え、じゃあ俺は?気を遣ってカラオケに誘わさせてる時点で罰を受けるべきでは?
そうでなくとも完全白ではないだろ?とか、でも自分の娘だったら許せんわなとか、いろいろと考えていた。
男の子は二度と支店に出社することなく、2週間ほど経った後、「病気の療養」が終わったということで、ちょっと問題のある人がリハビリする部署に異動していった。
「欠点がある」という評価は、なかなか覆すことが難しい。だからこそ、リハビリ部署から戻ってくることは難しい。
ほどなくして、退職者の一覧の中に、男の子の名前を見つけた。

セリーグはおっさん若手関係無く、制覇したら引退。
許しちゃくれない。

おしまい。

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