「パーパス作成」プロジェクトの振り返り(※コンサルに委託する前に読んでみてください)
はじめに(誰のための、何を書いた記事か)
こんにちは。組織・人事コンサルタントの木村亮です。
「誰もが可能性を拡げられる社会をつくる」をVisionに活動するAug Designの代表として、「HRコンサルの民主化=人事部の戦略人事化」を支援するために活動しています。
もっとわかりやすくいうと「人事コンサルのノウハウを公開」しています。
経営者の方、人事の方にむけて書いています。
これからパーパスを作成しようと考えられている方は、ぜひ一度読んでみてください。
そのうえで、自分たちでやり切るか、外部パートナーとしてコンサルに伴走してもらうかを考えていただけたらと思います。
振り返り(全体像)
先日、5ヵ月にわたるプロジェクトを通じて中部エリアのパイオニア企業の「パーパス作成」をご支援しました。
具体的にどんな取り組みをしたのか、
「全体像」と「詳細の手法」をポイントを交えながらお伝えします。
最初に全体像をお伝えします。
8つのステップとは以下の取り組みです。
①真のゴールを明らかにする
②チームを作る
③パーパスや関連するキーワードに関する知識を深める
④創業者の思いを振り返り、現経営チームの価値観を言語化する
⑤管理職層、現場職員の声を聴く(可能なら現場を直接見る)
⑥これまでに抽出したキーワードを基に未来のストーリーを描く
⑦発散したキーワードを収斂させる(丁寧に言葉を紡ぎだす)
⑧職員がどう感じるかのアンケートを取る
それではここから詳細の取り組み内容について説明していきます。
振り返り(詳細)
①真のゴールを明らかにする
「なぜパーパスを作成したいのか?」
パーパスをつくることはゴールではないはずです。
必ずその先に、「こんな組織にしたい」「こんな仲間でいっぱいにしたい」
という理想の組織像、人材像があるはずです。
経営者に対して様々な角度から問いかけ、まずはここを丁寧に掘り下げて、言語化していきます。
そして「どんな人に一番共感してほしいか」までの共通認識をつくります。
②チームをつくる
真のゴールが見えてきたら、それを実現するために巻き込むべき人を書き出し、プロジェクトメンバーを選出します。その際、
(A) 推進メンバー(毎回の打ち合わせに参加してもらうメンバー)
(B) サポートメンバー(要所要所で意見出しやワークショップに参加してもらうメンバー)
の二種類に分けることをおすすめします。
理由は「メンバーが多すぎるとプロジェクトが進みづらくなってしまう問題(日程調整が難しい・前提知識の量やプロジェクトへの熱量が異なるので毎回すり合わせに時間がかかる・考えを集約しづらい)」と、
「会社からの押し付けと思われず、主体者意識を持ってもらうためにキーマンはなるべくメンバーにしたい問題」のトレードオフを解決するためです。
(A)には意思決定権限をもつ現経営メンバーを中心に、できるだけ多様性のあるメンバー(社長にも物怖じせず反対意見を堂々と言える人がいるとBetter)を5~多くても7名くらいを選出し、それ以外の各部門長やキーマンを(B)のメンバーに任命することをおすすめします。
なお、ネーミングも重要ですので、「サポートメンバー」よりもっとコミット感の高いネーミングを考えられるとなお良いです。
③パーパスや関連するキーワードに関する知識を深める
パーパス、ビジョン、ミッション、バリュー、コンセプトなど様々なキーワードがありますが、これらは何のためにあるのか、どのようなものが聞く人の心に響き、行動を駆り立てるのかについて、企業やNPOなどの事例をみながら知識を深めていきます。
この領域は素晴らしい著者による名著が多いですが、この時点で押さえておくといいと考える私のおすすめは以下の3冊です。
(本当は(A)推進メンバー全員に読んでいただくのが理想ですが、今回は時間がなかったためサマリを作成しご説明しました。)
特に、名和さんが書かれている良いパーパスの3要件
は非常に重要な視点なので、「この3つの要件が揃っているか?」という問いに常に立ち返りながらプロジェクトを進めていくことをおすすめします。
素晴らしい企業の事例も数多ありますが、ここでは3つの組織、
・Patagoniaさん
・SONYさん
・LITALICOさん
の事例を取り上げて共有させていただきました。
④創業者の思いを振り返り、現経営チームの価値観を言語化する
創業者がご存命の場合は可能な限りインタビューを行い、亡くなっている場合は社史や在職中の経営メッセージ、寄稿文、生い立ちや幼少期の様子、考え方が分かる資料などをできる限り集めて読み込みます。特に、「創業するまでのストーリー」と、大きな危機を迎えた局面や飛躍のきっかけになった局面など「ターニングポイントを迎えることになった理由とどうやって乗り越えたか」に着目すると、今につながる重要なメッセージが見えてきます。
現経営チームの価値観の棚卸は、事前にシートを用意して「大切だと考える価値観」を書き出してもらってから、議論を進めます。
このとき、ゼロベースで「価値観を書き出してください」とお願いしても書きづらいと思いますので、
「創業者のストーリー」やHP等から収集した組織の既存のビジョン、ミッション、バリュー、経営方針、中期経営計画、人材育成方針などからピックアップしたキーワードを羅列し、
「この中で共感する順に番号をつけ、共感できないものに×をつけてください。また、その横に理由を書いてください。ここに無い言葉で、自身が大切にしている価値観や、この組織にとって重要だと考えるキーワードがあったら自由に書き加えてください」
と依頼するとスムーズに進められます。事前に集めた資料にコンサルタントまたはプロジェクトリード担当者は目を通しておいて、当日はそれぞれが「なぜそう考えたのか」をできる限り深掘りするようファシリテートします。
そして現経営チーム全員に共通するキーワード、賛成も反対もあるキーワード、全員が同意できないキーワードに分類します。
この時、「時間軸」も議論に加えるとなお良いです。
「過去の〇〇にとって重要だったキーワード」
「いまの〇〇にとって重要なキーワード」
「これからの〇〇にとって重要なキーワード」
に分類するということです。
そうすることで、変化を嫌う人の意見も、徐々に未来志向に変わっていくはずです。
議論するときは
「青臭くて恥ずかしいと思ってしまいがちなことも、真顔で言える空気」
をつくることが重要です。
そのためにはコンサルタント、またはプロジェクトをリードする担当者が積極的に自己開示し、心理的安全性の高い場づくりをする必要があります。
「心理的安全性が高い場」という表現は誤解されてしまうことが多いのですが、みんなが上辺で「いいね」と言い合う馴れ合いの場ではありません。
ベースにお互いへのゆるぎない敬意をもっているので、どんな意見が出ても、たとえ激しく議論し合っても、人間関係に影響するような心配はない、と思えている、信頼関係があるからこそ活発に議論できる場のことを「心理的安全性が高い場」と表現しています。
この空気づくりはもともとの組織のカルチャーや、メンバー同士の関係性に大きく依存します。そのため、コンサルタントまたはプロジェクトリード担当者は、メンバー同士の関係性に常に注意をはらい(発する言葉、表情など)、お互いがお互いの強みに気づくような仕掛けづくりをすることが有効です。
具体的には、ロジカルに話を進めことが得意な人とアイディアを発想することが得意な人がいたら、それぞれが活躍できるような問いを投げかけることです。また、上司と部下がいたら、経営視点での発想と、現場視点での発想、双方からの気づきを得られるような問いかけを投げます。
そして、それぞれの意見が補完し合い、同じゴールに向けてより質の高い議論に向かっていることを認識してもらうよう働きかけます。
⑤管理職層、現場職員の声を聴く(可能なら現場を直接見る)
ここまでで現経営メンバー含む(A)推進メンバーの目線(パーパスに関する前提知識、パーパス作成に対する当事者意識(と熱量まで揃ってきていれば◎)、大切だと考える価値観や共感するストーリー)がだんだん揃ってきていることを実感できると思います。
ただし、ここで一気に加速させてはいけません。
ここに大きな罠があります。
「経営陣だけ満足で、現場はしらけているパーパスが生まれる罠」です。
罠に陥らないためには、現場職員、中間管理職職員がどう感じるかを正確に把握することが重要です。正確に把握するためには、日々の業務をイメージできることが重要です。何に困っていて、何に悩んでいるのか。日々の業務の中でも優先順位はどうなっているのか。
これらの解像度を上げるために、可能であれば
現場に直接行って、視察する(職員の動きをみて、会話を聞くこと)を
おすすめします。
ある程度現場の理解が深まり仮説を持てるようになったら、
・(B)サポートメンバーへのヒアリングと、
・現場職員へのアンケートを実施し、
「理想の組織像・人材像についてどう考えているのか?」を可視化します。
ただし、突然「理想の組織像・人材像を教えてください」と質問されても多くの人は戸惑うと思うので、聞き方には工夫が必要です。たとえば以下のような問いかけです。
「これからもずっと残したい〇〇(会社名)らしさや魅力と、
変えていくべきだと思うところを教えてください」
「これからの〇〇を理想の姿に近づけてくれるのはどんな人だと思いますか?」
そのうえで、(B)サポートメンバーへのヒアリングを、まずは1対1で行うことをおすすめします。(A)のメンバーと(B)のメンバーの関係性が良好なら、(A)のメンバーから(B)のメンバーにヒアリングしていただき、結果を集約したレポートを次回のプロジェクトミーティングに持参していただく方法で、関係性が微妙な場合は(率直な意見を出しづらそうだなと感じる場合は)、コンサルタントまたはプロジェクトリード担当者がヒアリングを行い、結果を集約します。
ヒアリングの際のシナリオシートと、質問表(回答を入力できるシート)は事前に用意し、進め方について(A)のメンバー全員が集まる場で説明してから臨むのが良いでしょう。
ここで「まず1対1で行うこと」をおすすめするのは、「(B)のメンバーが空気を読んでしまうことを避けるため」です。キーマンではあるものの経営メンバーではない(B)のメンバーは、日頃から最終的な意思決定を行うことに慣れている(A)のメンバーに比べて、チームで議論すると「空気を読んで、平均的な回答をしようとする、他者(特に職務権限レベルの高い相手)の意見に安易に同調しようとする」傾向がみられます(あくまで傾向なので、個別には、そういうことに左右されず、しっかりと自分の軸をもった人も大勢いらっしゃると思います)。
そのため、まずは1対1でヒアリングした内容を集約したうえで、次のステップとして(B)のメンバーにも集まっていただき、それぞれが自分で出した意見とその理由について自分の言葉で話していただきます。
そのうえで、先ほど同様、心理的安全性の高い場づくりを意識しながら、会社として目指したい姿についての議論を深めていきます。
次に、全社員の声に耳を傾けるステップに進みます。
社員数にもよりますが、ここを直接ヒアリングするのは難しいという組織が多いと思います。そこで、「アンケートによるヒアリング」を基本と考えています。
「アンケート」の設計も重要です。
なぜなら、「パーパスなんて知らない」「興味ない」「そんなことに時間とお金をかけるならもっと違うことに振り向けてほしい(給与を増やす、人員を増やす、魅力的な新製品を増やすなど)」と考えている社員が大勢いるからです。
ポイントは「社員にとってのメリット」が分かりやすく記載されたリード文をつけることです。
「より働きやすいと感じられる職場をつくるために」
「家族や友人に誇れる仕事、誰もが憧れる仕事に進化していくために」
「社長と上司の言っていることが違う、が起こらない組織になるために」
などなど。
ここで先ほどの「現場視察」で得た、現場の困りごと、日常業務における優先順位などのインプットが役に立ちます。
そして集めた声を集計・分析します。
声を一つ一つ丁寧にすくい上げ、一覧化したシートをもとに、(A)のメンバーと一緒にキーワードを抽出していきます。
⑥客観的な"外"の視点で分析する(外部分析(PEST、3C)、内部分析(SWOT))
ここまで、
1.創業者視点
2.経営者視点
3.(A)推進メンバー視点(2と重複するケースも多い)
4.(B)サポートメンバー視点
5.現場の社員視点
で「理想の組織像・人材像」を考え、言語化してきました。
ただし、ここでもまだ一気に加速させてはいけません。
また罠がひそんでいるからです。
「身内だけ盛り上げっていて、外から見たら何をいいたいのかよく分からないパーパスが生まれる罠」です。
これは、
1.世の中の流れを知らない(見てない)こと
2.市場を知らない(見てない)こと
3.競合を知らない(見てない)こと
4.顧客を知らない(見てない)こと
が原因で起こりがちです。
そこで、有名なフレームワークを使って、
1.世の中の流れに目を向け(PEST分析)、
2.市場に目を向け(PEST分析・3C分析)、
3.競合(と比較した自組織)に目を向け(3C分析)、
4.顧客に目を向け(3C分析)
そのうえで、自組織の強みと機会を言語化します。(SWOT分析)
可能であれば(A)と(B)どちらのメンバーにも実施してもらいます。
実施後、ワークショップを通じてメンバー同士での気づきをシェアしてもらい、ここで出てきた重要なキーワードを抽出します。
の3要件のうち「ならでは」を強く意識しながら進めます。
⑥これまでに抽出したキーワードを基に未来のストーリーを描く
ここまでで、外の視点を含む、様々な視点からみた「その組織が大切にしたいこと」のキーワードがたくさん集まったと思います。
ここからは、(A)チームと(B)チーム合同で「これまでに抽出したキーワードを基に未来のストーリーを描くワークショップ」を行います。
はじめにアイスブレイクを行い、発想を未来に飛ばす準備運動や、自由闊達に議論するためのストレッチを行います。
次に、未来のことを考える呼び水として、『未来年表』や各省庁で発表されている未来像やテクノロジーの情報を伝えます。
準備が整ったところで、模造紙に
1.顧客にとって
2.社員にとって
3.社会にとっての
〇〇の魅力・強みをグループで書き出してもらいます。
この時、「(1)現在の強み」と「(2)これから強みにしたいこと」を書いてもらいます。
次に、あらかじめ決めておいた『ペルソナ像』(〇〇にとっての中心となる顧客像)を伝えます。
そして、「〇年後、(ペルソナ)が〇〇に出会うことで、人生にどんな変化が起きたか」のストーリーを描いていただきます。
これが毎回素晴らしく面白いアウトプットになります。
そのため私はこのワークが大好きです。
参加されたみなさんが自由に好きなことを言い合うためにはファシリテーターの場づくりが重要です。ここでもこれまでと同様、心理的安全性の高い場づくり+ここでは「ふざけたことも何でもOKな軽いノリの場づくり」を行うことをおすすめします。
なぜなら「発散」のフェーズだからです。
⑦発散したキーワードを収斂させる(丁寧に言葉を紡ぎだす)
未来に向けて十分に発散させたストーリーから再度キーワードを抽出し、(もともとあったキーワードを基に作成したストーリーですが、面白いことに、もとは無かったキーワードが生まれていることが多々あります)
これまで抽出したキーワードと複数の組み合わせのパターンを作成します。
まずはできるだけ多く作成します。
そのうえで、
の要素を兼ね備えているか、判断していきます。
NG案にしたものは理由を言語化し、同じ理由が当てはまる案も消していきます。パターンの数が多いので、収斂していく作業は根気強く続けていくことが必要です。
ここが最後の山場なので、根気強く、丁寧に進めていきましょう。
⑧職員がどう感じるかのアンケートを取る
最後の最後、パーパスを決める前に、「できるだけ多くの人の意見を聞く(聞くように努力する)こと」が重要です。
「みんなでつくったパーパス」であることが、この後の浸透施策を進めるうえでとても大切だからです。
進め方は数パターンあります。
1.(A)チームで3案程度に絞り、全社員に共感するもの理由をアンケートで聞く
2.(A)チームで3案程度に絞り、(B)チームに共感するものと理由をアンケートまたは議論で聞く
3.(A)チームと(B)チーム合同で議論し、1案に絞り込む
1、2の場合は「アンケートで決定します」ではなく「アンケート結果を踏まえて最終決定します」とし(アンケート結果が一致するケースは極めて稀なので、誰かの意見を無視することになってしまうため)、最も共感度が高かった案、または(A)チームが一番推したい案をベースに、反対意見や他の案を推す意見の要素をできる限り考慮し(※パーパス自体は長文ではなく短文でスッキリさせた方が浸透しやすいので、本体の中に組み込めない場合は、パーパスを事業や役割に落とし込むとこうなるという説明文に盛り込むなどの方法も検討する)、最終的なパーパスを作成します。
以上の8つのプロセスを経て、中部地方のパイオニア企業は1月にパーパスが完成し、同月末の経営計画発表会で社員や金融機関等各種ステークホルダーに発表することができました。
ここからはPhase2として「パーパスの組織浸透と実践」に取り組んでいきます。(浸透施策については追って掲載予定です)
ここまで長文にお付き合いいただきありがとうございました。
パーパス(存在意義)を作成するプロジェクトはとても大きなパワーの必要な取り組みですが、パーパスというアウトプットだけではなく、プロジェクトを通じて得られるもの(参加メンバーの視座・視野の変化、メンバー間のつながりの強化、経営メンバーと職員との距離感の変化など)もとても大きい、やりがいのある取り組みです。
これまでの内容を参考にしていただきつつ、自分たちで工夫しながら取り組んでいかれるという選択肢もとても良いと思います。大変なことは多いかもしれませんが、その分大きな成長と達成感を得られるはずです。
もし取り組みに伴走してほしいよ、という要望をいただけるのでしたら、Aug Designまでお気軽にご連絡ください。
おわり
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