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2021年第18回ショパンコンクールの雑感 1位 Bruce (Xiaoyu) Liu

少々今更感がありますが、そろそろ入賞者が演奏するCDが色々と出揃ったので、その中からいくつか個人的に好みに合いそうなアルバムを先日Amazon.co.jpとHMVで購入してみました。

1位 Bruce (Xiaoyu) Liu ブルース・リウ
今回のショパンコンクールは、YouTubeを通し、個人で勝手に採点しつつ、予選からリアルタイムで大半の演奏を追っていたのだけれど、彼は毎回その日の最終演奏者だったこともあり、実は最初から完全なノーマークでした。(予選から一貫した配点の高さから見て、元々関係者内での前評判が一番高かったのだろうと思います。)

毎日録画で断片的に聴いてはいたのですが、正直、本選に選ばれるまでまったく印象が残らず。完全スルーのまま決勝のコンチェルトを聴くも、やはり??? 散々伸びた結果発表で1位で呼ばれたとき、正直えぇっ!?と思いました。ブルース君はピアノ弾きとして見た目にも個性的とは云えず、正直、何処にでも居そうな東洋人の青年(中国系カナダ人)です。

優勝後にあわてて観返した動画で印象的だったのは、ダンパーペダルへのアプローチがかなり抑制的である点。その点に気付いてから断然面白くなって、Bruce Liuを見逃していた自分の見識の浅さを反省させられることに…。

本来、ショパンにより忠実なアプローチをするには、なるべくダンパーペダルに頼らない奏法が求められます。但しあくまで当時の楽器での話ですので、現代のピアノでどうかとなると色々な考察が必要になりますが、現代のピアニストは、多くの場合、ショパンの演奏でダンパーペダルを過剰に踏んで響きの効果を演出する傾向はあります。僕自身、子供の頃からダンパー踏みすぎと言われたまま今以て全く矯正できず。・・・当時はアシュケナージだって踏みまくりじゃん!と反抗していました…。

一見してショパンらしい響きの効果を得るために、技術が伴わなくてもダンパーペダルに頼ることである程度容易に誤魔化すことが出来るのですけれど、楽譜に記載された範疇の本来の用法に忠実に従うと、ダンパーに頼らずとも、まるで使っているかの如く常に音が滑らかに繋がって聴こえるように演奏する必要があり、実はピアニストとして遥かにハイレベルな基礎演奏能力が求められます。

もちろんショパンコンクールで上位に入るようなプロのピアニストは誰しもが基本的にこれが出来るピアニストの筈ですが、それでもコンサートピアニストとしては、やはり聴いて心地よい表現を求めた結果、どうしても踏みがちになってしまう部分はある。そこを徹底して抑制的に演奏しつつ、音楽がカクカクしたりブツ切れになる違和感無く、終始滑らかに高いレベルの音楽表現を魅せてくれたのがブルース・リウ君だったのかなと。

それ以外の面で彼が秀でているのは何か?と問われると、正直アマチュアピアニストで終わってしまった僕には判らない何かがあるのだろうか?と課題を提示してくれたのが今回の彼の優勝だったとも云えます。今、DGからリリースされたショパンコンクール入賞者演奏会のライブアルバムを聴いていますが、やはり何が凄いのか判らないぞ???という気持ちが未だ半分あります。DGのジャケット写真も極めてぞんざいで、売り出す気の無さが伝わってくるような・・・。

今回のショパンコンクール、Bruce Liu君は一貫してFazioliを使用していましたが、装飾音や弱音が極めて揃っていて演奏技術的に優れてはいるものの、元々の音色が格別に印象的だったり綺麗なわけでも無く、重心も高め。細部の解釈にほんのりとした個性はありますが、全体的には自己主張がかなり控えめな印象でインパクトは全く無し。哲学的な深みや凄みも感じられず。

「お手をどうぞ」による変奏曲が一番完成されて聴こえるのですが、このある意味曲想的には表面的で浅い音楽がしっくり来るのも、若さ故に許容されるのか?みたいな。耳当たりが優しく、全体として明るく朗らかで感じの良い、欠点の少ない演奏ではありますが、個人的に感動させる程のフレージングは無く、ショパンコンクールに求められているようなクラシック音楽界のスターに成り得る逸材なのか?については、正直、今のところ僕には判らないといった印象です。コンクール当日の中継演奏の印象は、このDGでのデビューアルバムでも変わらず。しかし、審査員の採点評価を鑑みるに、実は生で聴くと全然違うのかも知れない?という可能性に賭けてみたくもあり。

近年のショパンコンクールの個人的にあまりピンとこない勝者というのは、2005年のラファウ・ブレハッチについても未だに?だったりします。ただ、2005年は優勝に値する奏者が他にいなかった側面もある。その後、2010年のユリアンナ・アブデーエワと2015年のチョ・ソンジンについては、好き嫌いはともかく共に僕の予想と審査員の評価が一致していました。そしてまた今回のブルース・リウ君。でも個人的に聴いていて嫌なタイプの個性ではないので、いまいち良さが判らないと云いつつ、これからもフォローはしていく所存であります。

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