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航海日誌~はじまり~

 ふと気付くと、視界いっぱいに広がっていたのは、真っ青な海だった。
 ……海?なんで?そんなものが見えるわけない。だって僕は、……僕は?

 ――僕は、どこで何をしていたんだっけ?

 うっすらと記憶がかすんで、何も思い出すことができない。どこにいたのかも、何をしていたのかも。覚えているのは自分の名前と、あと今僕が握りしめているスマホの使い方だけだ。
 とにかくなんでもいいから思い出すきっかけを作りたくて、周りを見渡す。どうやら僕がいる場所は船の上のようだった。しかも木材でできた、海賊船のような船だ。誰かこの船に乗ってる人はいないのだろうか。船頭から見える景色から視線を逸らして振り返ると、そこには。

「……誰だお前ーっ!!」

 一人の青年が、僕のことを指さして叫んだ。



「どうしたん、とってぃ。」

 彼の叫び声に、おそらく船員であろう人達がわらわらと集まり出す。その中の一人が彼に声をかけた。

「くぼっち!知らんヤツおる!」

 彼は僕に向けた指をそのままに、驚愕の表情を仲間に向け必死に訴えた。
 彼の言うとおり、僕は知らない人だし言うなれば侵入者でもある。ここが本当に海賊船だったらどうしよう。僕の命はないかもしれない。

「あの、ここには宝物とかないですよ……?」
「いつから乗ってたの?前の島出発してからだいぶ日にち経ってるけど。」

 髪の毛がふわふわな人と、ピンク色の人が僕に話しかけてくる。どうやらとりあえず僕の話を聞いてくれるらしい。

「あの、僕、気付いたらここにいて……。どうやってここに来たのか分からないんです。」
「分からない?」
「はい。……信じがたい、ですよね。」

 僕だって、信じられない。自分に起こったことだとしても、訳が分からないんだ。こんなこと言われたって、信じてもらえるはずがない。そう思ってた。
 でも、目の前にいる彼らは、僕の不安とは反対にキラキラした瞳をしていた。表情は明るくて、まるで新しいおもちゃをもらった子どものように、全身でワクワクした気持ちを表現していた。

「信じるよ。」
「でも……。」
「信じる。じゃなきゃ冒険家の名が廃るし。」

 坊主で帽子をかぶった青年とクールな雰囲気を纏う彼を中心に、僕がどこから来たのか、何が起こったのかなどを予想しながらそれぞれの見解を話している。その表情はみんな期待に満ちていた。
 眩しいな、と思った。一緒にいたら、同じように僕も笑えるのだろうか。

「ねぇ、なに持ってるの?」

 ショートカットの女性が、僕が手に持ってるものを見て尋ねる。スマホだよ、そう言って彼らに見せるけど、全員不思議そうな表情をしながらそれを眺めていた。

「すまほ、って知ってる?」
「俺の住んでたところにはなかったなあ。」
「どうやって使うんです?」
「まずは電源をいれるんだよ。」

 髭を生やした青年が、背の高い猫目の彼に聞く。眼鏡をかけた髪の長い女性がスマホの使い方を興味津々に質問してきた。どうやらスマホ自体を知らないらしい。使い方を説明するために僕が電源を入れると、液晶が光ったことに彼らは驚いていた。朧気な記憶の中で、スマホは生活必需品だったことは覚えている。どうやら、僕が培ってきた常識からまず疑わなければならないらしい。

「……あれ、なんか表示されてる。」

 彼らからスマホに視線を移すと、画面には六つの島の描かれた地図が表示されていた。これはどこの地図なんだろうと首を傾げていると、驚きから立ち直った彼らが興味深そうに画面を覗いてきた。

「これ、どこの地図か知ってる?」
「うん、知ってるよ。これ全部、私たちの故郷なんだ。」
「故郷?」

 セミロングの髪をハーフアップにした女性がそう教えてくれる。どうやら彼らは、それぞれ違う場所で生まれ育ったらしい。最初に俺を見つけて叫んだとってぃくんと、その後にやってきたくぼっちくんの二人が仲間を集めて、今のメンバーになり冒険しているそうだ。

「俺たちが案内するよ。随分と故郷にも帰ってなかったし。」
「島に行けば、きみが帰るためのヒントも見つかるかも!」

 自分たちのことじゃないのに、とんとんと話が進んでいく。でもいいのだろうか。彼らの冒険の邪魔をしないだろうか。

「俺たちはどこかに急いでるわけでもなんでもないし、気にすんな!だから一緒に楽しもうぜ!冒険はいつも目の前に溢れてるんだから!」

 本当ならきっと今頃不安でどうしようもなかったはずなのに、彼らと一緒にいるだけで前向きになれるような気がした。

「……ありがとう。」

 こうして、僕が元の場所に帰るためのきっかけ――記憶の手がかりを探す旅が始まったのだ。

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