mumasaka
Twitterでつぶやいていた 「彷徨う死人と迷える少女」の物語
Twitterでつぶやき続けた、物語をまとめたものです。 StirRed 5で、この物語は完結しています。
「見渡す限りの死って感じだな…」 集合住宅の屋上、フェンスを乗り越えた場所に立ち、私は思わずつぶやいた。 「そんなにひどい?」 ゴーグルの耳あてに仕込んだ通信機からリーダーが訊いてきた。 「眼下に広がる町並みのところどころに蠢く人影。 人影はどれも青白い肌で、あてどなくふらふらと歩いてます。 まるで、映画でよくみる『動く死体』って感じです」 動く死体たちは町中を闊歩し、目につくものに何にでも噛みついている。 街路樹、タイヤ、窓ガラス。 「で、そいつらは他の人間を襲
「死」ってなんなんだろう? わたしは、読みかけのマンガを閉じて少し考えてしまう。 もう動けなくなること?息ができないこと? なんだか、近いけど「死」とはまるで違うことだとは思う。 当たり前の話だが、わたしには「死」というものを実感を持って考えることができない。 そういえば昨日、町のなかでピクリとも動かない猫をみた。 「死んでるのかな?」 そういって、手を伸ばすと、触るか触らないかというところで静電気が起きたのか、猫は飛び上がって逃げていった。 友達は笑いながら、
アスファルトに投げ出されたライを、同じように這いつくばった私とカイが、助けようと立ち上がり駆け寄る。 その私達とライとの間になにかが割って入る。 真っ黒で、馬のような大きさのそれは、犬の後脚に猫の四つ脚、計六つの肢を持ち、頭部は自転車用のヘルメットのような曲線と凹凸だが、目鼻口のようなものはないように見えた。 ふと見ると、空には大小様々な黒い塊が群れをなして飛んでいる。 なるほど、こいつらは巨躯の絶望が立つあの場所に集おうとしているのだと、唐突に理解できた。 目の
アレが追いかけてくるなか、私たちは三階建ての小さなビルへ近付く。 一階はまるまる車庫になっていて、壁の一面が開けている。 敷地内に丁度いいバケツが転がっていたので拾っておく。 車庫の隅には二階へ続く階段があり、そのすぐそばの壁には小さな四角い金属板がある。 「カイ、この金属板を壊してくれ!」 私はバケツから水を噴射して、触手の動きを捌きながら叫ぶ。 「わかった!」 カイが壊した金属板の奥には縦に白、赤、白と三つのボタンが並んでいた。 「先に二階へ行って、二階にある
コンビニのガラス越しに、車道に突っ立っていたソレは、今まで見てきたなにものにも例えられないシルエットをしていた。 その背はビルの二階にとどいていたのではないだろうか。 玉子のように丸い胴体に比べて、妙に平べったい腰からは、色は真っ黒だが人間の脚を思わせるものが三本生えていて地面を踏みしめている。 その胴体の肩の位置にはバイクか自転車のようなタイヤが左右から突き出ている。 その左側のタイヤの付け根からは電信柱が突き出ていて、その三つの脚ではバランスがとれないのか地面に
カシュンカシュンカシュン! 突然、機械的な音が響く。 私とカイは身構えて周囲を見渡す。 公園の入り口にバイクに股がったヘルメットをかぶった人影。ワイン色、アシンメに斜めのラインが入った細身のライダースジャケット、両手でライフルタイプのエアガンを構えている。 「セイ!空だ!」叫びながら、カイが指差す。 カラスのような黒い羽を生やした、ゴムホースサイズの真っ黒なミミズ。エアガンに撃たれたのだろう、崩れた体勢を空中で身をよじり整えていた。 「こっち!」バイクに股がった人物
「世界、終わってんな」 と、背後から唐突に声をかけられた。どちらかというと、声をかけたというより独り言に近いニュアンスだったかもしれない。 この辺りでは一番高いビルの屋上。 眼下には、人の動きのない時間の止まったかのような街並みが、白い自然光を反射しながら広がっている。 振り向くと給水塔に腰を掛けている線の細い人影。 装飾品をジャラジャラ付けた、露出の多いボディラインのはっきりした格好、そのわりに男か女かよくわからない。逆光で顔はよく見えない。よく見えないなりに私
茶色の外壁に有機的にまとわりつく金の魔力管。見上げれば、空高くそびえる時計盤。 地上部分の高さは3000メートル。 地底部分は1000メートルの深さにおよぶという、巨大な仕掛時計塔「トキザミ」。 ここはかつて、兄弟喧嘩をしていた「太陽の神」「月の神」が和解の記念に建てたのだと伝わる。 塔の各所には動力源である大小様々な「時水晶」が配置されている。いや、配置という言い方は正確ではないのかもしれない、それらは魔力管を流れるの魔力により結晶化したものだという。時水晶からは魔力
ここが、まだ村だった頃、それはここを訪れた。 そのものは布一枚すら身にまとわず。ひょろりとした足取りでやって来ると、疫病で死んだものを打ち捨てていたすぐそばに、ずっどしと腰を降ろした。 そして、その日から村では疫病の脅威はパタリとおさまったのだ。 そのものは緑の背中に少し深い緑色の毛を生やし、桃色の腹を付き出すような姿勢で座る。 身体からは六本の青い毛を生やした脚とも腕ともつかないものを伸ばしている。頭と胴の境目はくびれがなく繋がり、口と鼻、耳のようなものは見えず、透き通った