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僕なりのエコロジカルアプローチ(前編)

お久しぶりです。あっつベルです。後学期の波にもまれしばらくnoteの更新が止まっていました。久々に筆を執った今回は、最近自分の中でアツい「エコロジカルアプローチ」について自分なりに調べ、考えてまとめたことを書いていきます。参考文献は末尾にあるので、詳しく読んでみたいという方はそちらからお願いします。よろしくお願いします。

(3/13追記) 自分の理解が浅い部分があったので、勉強し直したうえで大幅に加筆修正し再投稿しました。

※この記事はエコロジカルアプローチについて文献等を元にした正確なメソッドの記事ではなく、あくまで私なりの考えを基にした記事です。多少の間違いがあると思います。よろしければコメントでご指摘ください。

はじめに -エコロジカルアプローチとは-

エコロジカルアプローチとは、アメリカの心理学者ギブソンの提唱した――といった説明はリサーチ不足故詳細に書くことはできませんし、私のできる説明はたいてい調べれば一番か二番に出てくるので省略します。

初めに触れておくのは、エコロジカルアプローチとは既存の広く使われるトレーニング理論(=要素還元的トレーニング)とは異なる理論ではありますが、戦術的ピリオダイゼーションや構造化トレーニングには必ずしも対立しないという部分です。
詳しくは本章で解説しますが、世間で一般に言われる理論との認識は多少異なるということを最初に付しておきます。

ここでは文献を基に自分なりに整理したエコロジカルアプローチにおけるメインとなる理論といくつかの用語について解説します。実践的な部分については実際に現場で試した後に書こうと思います。

旧来のトレーニングと対比したエコロジカルアプローチ

メインとなる理論は「生態心理学」です。専攻していないため説明はできませんが、平たく言えば現象や物事を「動物(自己)」と「環境」との相互関係で解釈する学問です。

ここでは自己と相互作用を生み出す状況を「環境」と呼んでいます。しかし別の意味でも環境が使われるので(後述)、ここから先は相互関係をなすものについて「周囲」と呼称します。他の文献を読む際は混同なきようお願いいたします。

これは今までのトレーニング理論において主流であった「要素還元主義」とは対極をなす考え方となります。サッカーを「4局面」や「パス/シュート」のように要素として分解し、個別にトレーニングすることでサッカーを上達させることが要素還元主義の骨子となっています。
一方エコロジカルアプローチでは、サッカーは人と周囲の相互の関係で成り立っており、個別に現象の要素を取り出すことは不可能であるとしています。

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例を出しましょう。「トランジション」や「トライアングル」といった現象を切り取って練習しようとする行為は、特にスキルの適応や連携の習得においてほとんど無意味であるとされます。
これらはプレーの中で意味をなすものであり、このように個々で切り取ると「抽象的で非文脈的な概念」に過ぎないとされているのです。現象はあくまで現象にすぎず、それまでの周囲と自己との関わり合いによって生まれるものであるという考え方のようです。

上で紹介した「スキル」とは、単に技術や足技を指すのではないです。
ここでは『再現可能な運動記憶の獲得』と定義される、運動における問題を「器用に」解決する能力を指して使われます。

戦ピリ、構造化とエコロジカル

続いて比較的最近のトレーニング理論であり、日本語でも広く普及している戦術的ピリオダイゼーション(以下戦ピリ)と構造化トレーニング(以下構造化)との共通点、相違点について自分なりの答えをお話していこうと思います。

まず3つすべての共通点について。
1.既存のトレーニング理論(=要素還元的トレーニング)からの発展と脱却を目指している
2.サッカーを「複雑系」として捉えている
3.非線形のトレーニングを行う の3点です。
1についてははじめにで触れたとおりです。2,3は1とも共通するのですが、サッカーは要素として分解することが出来ない(複雑系である)ことと、複雑系ゆえに線形のトレーニングは向かないという部分です。

線形とは、数学的には「和とスカラー倍について閉じている」状態を指し、実生活などにおいては直線的に増加する状態を指します。
線形のトレーニングは時間経過とともに徐々に負荷を上げるやり方を指します。これは筋トレや陸上種目のような単純なフィジカルの強化を目的とする際には一定の成果があるのですが、複雑系に対してはあまり効果を発揮できなくなります。詳細は後ほど。

次に相違点、下に簡単にまとめた表を作りました。

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始めに触れたとおり、対立する理論ではないので近い点もそれぞれ存在します。4つの領域について軽く補足しておきます。

まず右上。戦ピリは指導者のゲームモデルを前提としてそれに沿ったトレーニングを計画します。そのため指導者には自分のゲームモデルを必要とし、ゲームモデルを落とし込むために「複雑系」として要素を取り出し繰り返し練習します。
一方構造化とエコロジカルではあくまで選手が「自己構造化」もしくは「自己組織化」をすることを目標としているので、ゲームモデルやそれに沿ったトレーニングは必要としません。

次に左下。構造化は「選手個人をサッカーに特化したアスリートに育成すること」が目的なので、個人にアプローチします。他ふたつは(無論育成世代でも活用できますが)育成よりもトップで効果を発揮するので個人をアスリート化することに重きを置いていません。

最後に右下。戦ピリの「ピリ」の要素と構造化はフィジカルトレーニングに端を発しているのでコンディショニングのための期分けを必要としますが、エコロジカルにおいては特に必要とされていません。
また、個人かチームかにかかわらず選手のみにフォーカスをする他の理論と違って、選手+周囲にアプローチします。
後半でも章立てしますが、一番ともいえる違いは指導者主導のトレーニングから選手主導のトレーニングへと転換している部分です。

アクションが起こるまで

では次に具体的なアクションが起こるまでの解釈の仕方について触れます。

プレゼンテーション2_page-0001

先に述べたように、具体的な現象が現れるには「自己」と「周囲」の両者が必須です。
自己については読んで字のごとくアクションを起こす当人です(文献によって学習者やプレーヤーとも訳されます)。そして周囲とは自己を取り巻く状況(環境とも言い換えられますが......)です。

周囲について具体的に掘り下げていきます。周囲には大きな変数が3つあります。「タスク」「人」そして「環境」です。
タスクとは意図やルール、道具といった周囲の中でもとりわけ変数としていじりやすく、指導者が制約することのできる部分です。
人と環境についてはそのままで、人は自分や周囲の人間のステータスや特性、環境は天候やピッチのような操作しづらい周囲の状況です。

この3つの変数がアクションを決定し、変数を変えることで効率的にスキルの獲得が出来るのです。このようなトレーニング方法を「制約主導型トレーニング」と呼びます。

余談

ここから先は4000文字をオーバーするので後編に持ち越しとさせていただきます。ということで余談という名の中休み兼前編の締めです。

諸説ありますが、エコロジカルアプローチは14-15シーズンからASモナコを指揮したジャルディム監督が世界のトップレベルではじめて採用したとされています。
その後ロシアW杯のフランス代表などでも同様の理論と思われる試合を展開したこともあり、少しずつ有名になっていきました。
私自身も名前だけは知っていましたが、日本語で調べても多くの情報は得られませんでした。

そこで一念発起し、英語論文を読むことで理論として深く学び記事にすることで、これから勉強しようとする人へのファーストステップとなればいいなと思い執筆しています。
翻訳して勉強している最中にもfootballistaで取り上げられたりと少しずつ日本語でも簡単に学べるようになってきました。こうやって新たなメソッドが広まり、成熟していってくれればいいなと思っています。

では今回の記事はここまで。次回は後編です。またお会いしましょう。それでは。

参考文献

footballista 2022年3月号 solmedia 

「サッカー」とは何か 林舞輝

「エコロジカル・トレーニング」ムバッペたちを磨き上げた新理論 林舞輝

エコロジカルアプローチ①-学習者中心の最新トレーニング理論- 小谷野拓夢/koyano hiromu

Ecological Dynamics: How can they help explain football?  Liam Murphy

Football, Culture, Skill Development and Sport Coaching: Extending Ecological Approaches in Athlete Development Using the Skilled Intentionality Framework James Vaughan, Clifford J. Mallett, Paul Potrac, Maurici A. López-Felip and Keith Davids

Learning to be adaptive as a distributed process across the coach–athlete system: situating the coach in the constraints-led approach  John van der Kamp and Chris Button


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