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姫ファンタジーストーリー3☆姫の教育とボン隊長の身の上話

粗野な姫

「姫を皆の前へ」と声がかかり、重厚なカーテンが開きました。すると、そこには…「なんてことでしょう!」人々のざわめきと、驚きの声があがりました。
「ひ…姫!?」姫は事前にお召の者が着せておいたお洋服を全部脱ぎ捨てて、自然のままのお姿になっていたのです。婆ばは慌てました。下僕頭も顔を真っ赤にしています。「早く、早く幕をお閉めなさい!!」と婆ばが思わずおお声で叫びましたが、下僕頭は慌てて赤い紐、青い紐、黄色い紐…と、数本ある紐をいろいろに引っ張り、間違ってさらに幕を大きく開けたり。窓のカーテンのひもを引っ張り、窓からの光が差し込み更に明るく姫の姿を照らしたり…とにかく、ようやく幕が閉まりました。


 その様子を見ていた一同はあっけにとられ、ざわざわ…この始末はどうしたことかと考えている時に「はっはっはっはっ!」と王様の楽しげな笑い声が広間に響き渡りました。それにつられて、広間の人々は和やかに笑って拍手も起こるほど楽しい時間になりました。王様は「もうよい。そのままで。しっかりと食事をとらせようぞ。姫もさぞ腹が空いておるじゃろう。」と言ってくださったので、婆ばは胸を撫で下ろしました。
 そう、まだ森から連れてこられて、外見は急ごしらえで整えられたけど、まだ毛むくじゃらの小さな獣…あ、小さな女の子でしかありません。婆ばはこの女の子を両手で抱え、食事のテーブルにつかせました。すると、目の前に並べられたタヌゥーが準備した料理を、姫は両手でつかみ「むしゃむしゃ」と音を上げながら食べ始めました。それを見た王様は、また更に「ははは」と笑い「さ、早う。皆も食事をとるがよい」いつもの乾杯は簡略なもので、それぞれがぶどう酒の盃をとり王様に捧げ飲み干した。
 ボン隊長だけは、その毛むくじゃらの姫が瞬間に逃げ出しはしないか、いつも気を配って見ていた。ボン隊長はその姫の逃げ足が速いことを知っているので、気配を逃さないようにしていた。姫も、自分のお腹が満足するとようやく周りの様子が分かってきたようで、気配を消して小さくなっていた。

そうやって和やかに、最初の宴が執り行われた。姫は宴の席で緊張して、とても疲れており、その様子を見た婆ばは姫を毛布でくるみ王様の前へ連れて行った。王様は「もう休ませるがよい。そして、明日から婆ば、お前が姫の教育係となり、姫がこの城で暮らせるようにするのじゃ。護衛にはボン隊長をその任務に充てよう。」とおっしゃいました。姫は毛布から目だけ出して、王様の言葉をじっと聞いていた。

寝室にて

婆ばはまだ軽い姫を抱えて、広間からでて準備した寝室へと向かった。準備された寝室は月の塔にある婆ばの寝室の隣にある。ふかふかのベッドが整えられており、婆ばはそっと姫をベッドに置いた。すると姫は素早く逃げ出し、ベッドの下へもぐりこんでしまった。覗き込むと2つの光る眼がおびえたように光っている。「今日はそこでお休みか?」と言うが、全く動こうとしない姫。「しかたないね。」と、婆ばはそっとテーブルのろうそくを消し、ドアをバタンと閉めた。
 月の塔は月がよく見える場所に建てられた棟で、その窓からは月が輝くのが見えた。先ほどまでの騒ぎが嘘のように、窓の外では「ほうほう~ほうほう~」とフクロウの鳴き声、秋に鳴く虫の音が盛んに聞こえていた。姫はしばらくその音に耳を傾けていたが、そのうちに眠くなってしまった。

教育の始まり

朝が来て、柔らかい光が部屋に差し込んできた。姫はベッドの下で目を覚ました。とうとう、石のタイルで敷き詰められている床で寝てしまったのだ。「んあ~」と声を出して伸びをすると、体中が痛んだ。姫はベッドの上にぴょんと上がり、用を足した。そこへ婆ばが入ってきて「おはよう姫様…あれ、何てことを!!」と用を足されたベッドを見て唖然となった。「ここは用を足すところではなくて、寝るところでございますのに。」と姫を抱え、ベッドに毛むくじゃらの頭をつけて教えた。しかし、姫は何かわからぬまま、されるままになっていた。
しかし、仕方ない。昨日まで森にいたのだから…。これを教育するにはどうしたらよいものか。婆ばは内心考えた。

「そうだ。」婆ばは思いつた。「ボン隊長に教えてもらおう!」婆ばは、ボンが小さな時から世話をしたが、ただに一度だけ用の足し方を教えただけで、どこへ行っても決して失敗することがない子供じゃった。そこに関して、ボン隊長の右に出るものは婆ばの記憶にも誰も居なかった。

ボン隊長の身の上

ボン隊長は今ではとても勇敢な戦士となり、誰よりも強く賢く、勇気のある振る舞いで各国の女子を虜にしているが。このボン隊長にも大変小さな時があり、婆ばがそのお世話係を王様から仰せつかったこともまだこの前のことのように思い出す。王様の大事な馬車に何故かしら入り込み、「身体が小さかったから、はいりこんだのではないか?」と馬車係と話し合っておりました。しかし、そこは歯車が重なり合っている場所ゆえ、「もしかしたらボン様の体が引きちぎれていたかも知れぬ」と聞いたとき、婆ばはぞっとしたものでございます。「なんと運のよい子じゃ。しかも気も強そうじゃ。」と王様は、「これを教育して国を守らせよう。」とお決めになりました。仕方なく、婆ばはその世話をする役目にあいなったのですが、ボン様はめきめきとご成長なされ、王様の見込まれた通り勇敢な青年にご成長されました。

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 「でもね」と婆ばは思い出します。ボン様がまだ小さな時、姿の亡き母上を思ってか、婆ばに吸い付いてきておったことを。これだけは王様には内緒で、周りの者にも内緒で、ボン様の名誉を損ねぬようにした婆ばでありました。

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ボン様による姫の教育

ボン様による姫の教育が始まりました。姫は布とみると、それをたぐりたぐり用を足そうとされます。ボンは𠮟りもせず、ただ自分で砂を搔いてみせるのです。姫のために下僕が用を足す器をたくさん準備しました。ボン様はそれを一つ一つくんくん嗅いでチェックし、まずはご自分で用を足して確認してみました。「はなはだ良し!」とするものを、婆ばが姫に勧める。ボン様がやって見せる、婆ばが勧める…この繰り返しを何度やったことでしょうか。

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 ある時、姫様がそっと器に入りました。婆ばは、息を殺して見ておりました。姫が何度も嗅いで確認します。そこで邪魔するとせっかくの気分が台無しです。姫が器に頭から入りました。「ごそごそ。ごそごそ」と音がします。くるりと向きを変え、姫が集中し始めました。婆ばは息をのんでその間待ちました。「ぴょん」と姫が飛び出しました。


「やった~!やった~!今夜はお祝いだ!宴の準備をしろ。」と下僕頭と婆ばは抱き合って喜びました。その声を聴いて、城中が宴の準備を始めました。これで、王さまの前にご報告をして、少し姫の成長を見ていただけることでしょう。姫は少し恥じらい、それでも胸を張って自分ができるようになったことを誇らしく感じました。

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