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Malediction

【グラブル二次創作】【ベリジタ捏造】
世界観把握が緩く設定捏造してる上にモブも出てきますので
苦手な方はお控えください

今日の少女は機嫌が良かった。

空の遥か遠くで暮らす父から珍しく贈り物が届いた。
誕生日でも音沙汰がないことが多く、便りを期待することには幼いながらに諦めがついていた。だからこそ、喜びを抑えずにはいられない。
中身は真っ白なワンピースである。装飾は僅かなレースだけ、シンプルではあれど、身に纏ったときにふんわりと揺れるフレアが、少女の心を躍らせた。

シワがつくから大切にしまっておきましょうという母の言葉も耳に入らず、鏡の前でポーズをとっては嬉しそうに笑顔を浮かべる娘。
母はお手上げと言わんばかりに、小さな編み上げのバスケットと僅かなルピを手渡した。
家からそう遠くない、商店街にある花屋へのお使い。
『街の人たちに可愛い貴女を自慢していらっしゃい』と、自慢の娘の小さな門出を見送った。

***

馴染みの店主たちは揃って、おめかしをした少女を褒め称えた。
『お父さんがくれたワンピース』は、どんな高い服にも劣らない、少女にとって最高のドレスであった。自然と背筋が伸び、足取りも軽く、表情も凛と明るくなる。
踊るように商店街を駆け抜けて、決めポーズをとるようにステップを踏み、立ち止まったのは小さな花屋。
開け放たれた扉から、一歩踏み入れた。

「いらっしゃいませ。あら!ジータちゃん」

花屋の女店主がカウンターの向こうで出迎えた。
店のなかにはあまり客はなく、店主と、そのカウンターに身体を預けるように寄り掛かっていた背の高い男がひとり。
思わず、視線が止まった。

『少し待ってて』と男に告げた女店主は、カウンターを出て少女に近寄ってくる。

「お使いかな?」

少女は男から視線が離せぬまま、小さく頷く。
そんな少女の目の先に気付いた女店主は、フフと笑って少女の肩に手を置いた。

「ごめんなさいね。ちょっと怖かったかな」
「怖い?心外だな。魅力的と言ってくれないか」

男は低く深く沈みそうな声で、優しく甘く絡み付くような話し方で、言葉を紡いだ。
その内容は少女が理解するにはまだ少し難しかったが、べたりと頭と心にへばりついて、じわりと浸透していった。
最初に感じたのは、嫌悪。

「いつものお花でいいのかな」

簡単な言葉のやりとりを終えると、女店主は慣れた足取りで必要な花を集めだした。

その間も少女はただ黙って、じっと男を見つめている。
最早少女自身の意思で目を逸らすことは出来なかった。何か不思議な力で縫い付けられているようだった。
バスケットを握る手にはなぜか汗が滲んできて、肩にはどんどん力が入っていく。男を見つめれば見つめるほど、恐怖とは違う、未知なる負の感情が着々と心を支配する。

「そんなに熱い眼で見つめられたら、火照っちゃうよ」

気味が悪い程に白い肌に乗ったこれもまた血色の悪い唇が、にんまりと弧を描く。

「でもほら、レディ。ココにシワが寄ってるぜ。可愛い顔が台無しだ」

自らの眉間を指で押さえながら、男は硬くなった少女の表情を指摘した。
少女は言わずもがな更にその皺を深くするが、男が『ハハッ…』と笑いを溢すと同時に少女から視線を外すと、少女の身体の力が一気に抜けた。
肩の力が緩んだことで、少女は左手に掛けていたバスケットを思わず取り落とす。母から預かったルピが入った小さな布袋が中から転がりだし、金属の擦れる音が店内に響いた。
音に気付いた女店主が、切り花を抱えたまま振り返る。

「ジータちゃん!大丈夫?」
「オーケイ。オレに任せてキミは仕事を続けるんだ」
「ちょっと『ベリアル』、変なことしないでね」

散らばったルピを一枚一枚拾いながらも、少女は男の「名前」を聞き落とさなかった。
男はゆったりとした足取りで少女に近付き、膝を折って身体を屈める。
自分の頭の上に男の影が落ち、思わず少女は伏せていた顔を上げた。
男の肩から左腕に掛けられた黒い羽根が少女の頬を擽り、朱黒い男の眼が再び少女の眼を縛り付ける。

「おや…」

一瞬眼を丸くした男は、少女の耳元に顔を近付けスンと香りを嗅ぐような仕草を見せた。微かに風が首筋を撫で、少女はひくりと身体を震わせる。
その近い距離は一瞬で、男はすぐに顔を遠ざけると、右手に乗った一枚のルピを少女の前に差し出した。

「カウンターの前に落ちてたぜ」

少女は恐る恐る差し出されたルピに手を伸ばした。極力男の手に触れないよう、指先に意識を集中させる。
だが、その細い指がルピに触れた瞬間、男は少女の小さな手を掴んだ。男性が女性をダンスに誘うような軽い触れ方だったが、少女には力強く握り締められているように感じられ、思わず『ひっ』と悲鳴を漏らしてしまう。
その様子に男は少々困ったように眉を上げ、そっとその手を放した。

「華奢な指だなぁ」
「ベリアル!やめてって言ったでしょう」

女店主の強い言葉に『ハイハイ』と適当な相槌を打つと、男はそのままカウンターの前へ戻っていった。

集めた花をカウンターに持ってきた女店主は、器用に長さを切りそろえて小さなブーケを用意した。
少女は拾い終わったルピを袋に入れ、今度は落とさないようにとしっかりにぎりしめたままカウンターに向かう。男を避けるようにカウンターの真反対に回ると、男は『すっかり嫌われちゃったなあ』と残念そうに言ってみせた。
ルピを手渡すと、女店主は少女が持ってきたバスケットに出来上がったブーケをそっと入れる。花が潰れないよう位置を調整してから、バスケットに布を被せ、丁寧に少女の腕に掛けた。

「はい、これでおしまい。どうもありがとう」

少女は軽く会釈をした。
女店主の見送りで、少女が帰路につこうとしたその時、女店主の後ろから男が顔を覗かせる。

「レディ」

男は少女に近付き、背を屈めて頭に手を伸ばす。
ビクリとあからさまに動揺した少女に気付いた女店主が『ちょっと』と言いながら男の手を制しようとしたが、『大丈夫だよ』と男がそれを止める。
少女は男が自分に危害を加えることはないと感じてはいたが、やはり身体の強張りを緩められなかった。

男はそっと、壊れものを扱うかのような手付きで、少女の髪に一輪の花を挿した。

「ステキなドレスを召したレディの晴れ舞台に、オレからのプレゼントだ」

その花は真っ白なアサガオだった。
香しい匂いも鮮やかな色もなかったが、自身の形をただ主張するように、真っ白な顔を堂々と前面に向けて咲いている。
少女のワンピースの色に負けず劣らず存在感を放つ花は、少女の表情を爽やかに明るく照らすが、少女の表情は未だに固かった。
しかし花屋のショーウィンドウに映った自分の姿を見て、キュッと結んでいた唇が思わず解ける。

その表情に男は満足げにニコリと微笑むと、女店主の後ろに下がりひらひらと右手を振ってみせた。


「では、良い一日を。」


***

手に咲いた其の色は余りにも彼に不釣り合いで


「Dear」- Sakuzyo (「CRYSTAR」)

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