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ショートケーキ

12月24日といえばクリスマスイブ、そして25日といえばクリスマス。
彼女や彼氏がいるカップルであれば、週末に美味しい外食をしたり、自宅にケーキやシャンパンを用意してお祝い気分を二人で味わうのも乙ですね。

彼女がいない青年であれば、男友達と酒場に集まって鍋をつついたり酒を飲んで年内の振り返りをしたり、雀荘店にセットで入店して朝まで麻雀を打つというのも有りだろう。

そして、小さなお子さんのいる家族であれば、夫婦で前日までにケーキの予約をしたり、子供へのちょっとしたプレゼントを用意して子供達の喜ぶ姿を家族で味わうのが最高の喜びだろう。

毎年、この時期になると寒さと共に都会の洒落た飲食店全てがクリスマスモードに突入する。

この時期になると25年以上前の淡い記憶が蘇ります。

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25歳の頃、IT業界で3年目の私は貧乏サラリーマンをしていた。
確か残業代が多少でて手取りで20万円いくかいかないか位の給料だった。
当時は、29歳の美人で性格が優しくてスタイルの良い年上の女性と同棲して8ヶ月位が経過していた。

実は、同棲していたものの、彼女が既に結婚を前提にした別の彼氏とお付き合いしている時期だった。それが分かったのが同棲生活をして半年位を経過してから、初めてキスを拒否された時に気が付いた。

相手が誰かも良く分かっていた。中小企業の社長で、30代後半位の妻子持ちの気の良いおっちゃんだった。彼女は飲み屋で働いていて、そのお店のお客様で私も少し知っている方だった。

別れ話を双方自然として、お互い動くに動けない理由があった。
私は、薄給で引っ越しする資金を貯めるには時間がかかるので、彼女と別れても当分は2DKのアパートから引っ越す気は無かった。
彼女も彼女で、相手先の調停離婚や受け入れ準備期間があり、そのタイミングを見計らう時期だった。

また、私の薄給と貯蓄の無さを理解した上で、当時10万近い家賃を払い続ける負担が大変だろうという優しさから、別れた状態なのに同棲を継続していた。この時の数か月は、過去一番精神的に辛かった。

当時付き合ってた彼女は、自分が生れて初めて結婚したいと思った相手だったので、自分の将来に期待や夢を持たされなかった自分に不甲斐なさに毎日が悔しさに溢れていた。

兎に角、目の前の仕事をやり切る事と自分のスキルアップをする事に集中するしか無かった。IT業界は、20年前も現在も待遇の良い業界ですが、スキル3年未満の中小企業の平社員では、どうあがいても何もできなかった。

当時は、今でも覚えていますが、兎に角早く自分を成長させて、スキルを伸ばすしか無いと思っていた。朝早く出社して、満員電車でも技術書類を立ち読みして夜遅くウトウトする電車に揺られながらも、書籍を読みまくる。

それしかできなかった。

彼女に女々しい引き止めの言葉は一切掛けなかったけど、心の中では自分を信じて俺の成長を見守って欲しい少し時間を欲しいと思っていた。

月日が流れクリスマスイブの寒い冬の日、
私はいつも通り、仕事に向かい夜遅くまで仕事をする。
夜24時頃、暗い歩道を歩き、暗い部屋で灯りをつけると2DKのアパートには彼女は勿論いなかった。理性的に理解していた事だが、何とも言えない寂しさと仕事の疲れが重なって何とも言えない憔悴感にかられた。

疲れて、冷蔵庫を開けるとポツンとショートケーキ1つが置いてあった。
彼女が、自分一人でクリスマスイブの時に何も祝わないのも何だから、出かける前に近所のコンビニで買い置きしてくれていた。

別れたにも関わらず、執行猶予にも似た同棲生活に一人で食べたシュートケーキの味はほろ苦かった。彼女の性格の良さと優しさが混ざったケーキには、自分の何もできない悔しさと相まって何とも言えなかった。

勿論、彼女はそのクリスマス前後の2日間はアパートには帰宅しなかった。
それから、春先に向かう頃に彼女の彼氏の受け入れ準備ができたので、正式に彼女が引っ越しが決まった。

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その後、3年間位自分の人生で一番仕事に精を出して、一番勉強しただろう。どこかで、男の1人や2人付き合っても自分が確りと成長すれば、必ず戻せる自信はあると思っていたからだろう。
別れてから3年後、収入が倍以上になって駄目だと思いつつ、酔っぱらった勢いで電話をしてしまった。

そして、その彼氏との間で子供ができた報告を受けた。
それを聞いて、努力しても乗り越えられないタイミングと相性、壁があるのを理解した。そこで初めて全てが完全にふっ切れた。

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それから20年以上経過して、彼女は色々と苦労しながらも現在は、笑顔の皺と中年太りが似合う気の良いお母ちゃんになっている事を風の噂できいた。

色々なクリスマスイブを数多く経験して、良くある洒落乙な一般的なカップルの経験もある程度してきたが、25年経てもあの冷蔵庫にポツンとあったショートケーキ1つの映像と再現不能な味は今でも忘れられません。

皆様は、是非良いクリスマス・イヴをお過ごしください。


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