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Oberinと堀くん


私はゲームが苦手だ。

基本的に詳しくないし、コントローラーの操作も酷いもので
例えばスーパーマリオブラザーズ。助走をつけたジャンプで大抵、
「ティティティ ティティティティ 」と音が鳴る。
(下に落っこちるということ)
レースとか車の運転みたいなゲーム(ファミコンね)、ほとんど『道なき道』を進んでる。まぁ、車の免許も実際持っていないけど。


何年前のことかも忘れたけれど、相当な昔。
かなり自堕落な生活をしながら、仕事をしていた時期があって
Oberin(オベリン)という、Macintoshで動作する無料の多人数参加型オンラインロールプレイングゲームにハマっていた。
友人夫婦と相方も遊んでいて、私もちょっとやってみようかな と
そんな気持ちで始めたゲームだった。

私たちは相当なハマりようで、仕事の合間にも「少し遊ぶね~」と言いながら1〜2時間も真っ昼間から遊んでいる始末。自分のキャラクターを成長させるために、戦ったりダンジョンに行ったり、木を切ったり料理をしたり釣りをしたり。

こういうゲームを初めてやったんだけど、チャットみたいな感じでコミュニケーションができるのだ。自分のキャラクターの上に名前が付いていて、私はsolsikke(ソルシッケ)という名前だった。みんなは私をsol(ソル)と呼んだ。

こういうゲームでもコミュニケーションを大勢の人と取るのが得意な人と、そうでない人がいて、私は後者だった。人に迷惑をかけたくないので、基本1人で遊んでいた。コミュニケーション上手な人は毎回色々な人や決まった人と、一緒に旅に出かけたりして、敵をやっつけたり、お宝を拾ったり、レアアイテムを手に入れる。私はそんなことよりも、死なずに初心者レベルのダンジョンで毒ネズミ相手に戦うので精一杯だった。


そんなある日、「ほりっち」という友達が出来た。きっと「堀くん」なんだと思う。堀くんはコミュニケーションも上手だったので、みんなに慕われていた。ひょんなことから仲良くなって、いつも「sol、sol」と話しかけてくれた。他の人にも「さっき ほりっち が探していたよ」と言われて、いつも会うと近くに駆け寄り、私に話しかけてくれた。

しばらくして。
何がきっかけだったか忘れたが、堀くんと2人で遠征するようになった。私はレベルが低く、上手じゃないので死亡する確率も高い。堀くんはそれをいつも考慮して、一緒に遊んでくれた。

正直、リアル生活よりもずっと大事にされている感があった(笑)
小さな小人のような私たちの分身が森の中を歩く。大物の敵が出てくると、堀くんは「sol、大丈夫?」と聞いてくれて、ちょっと私が無理そうだと前に出て戦ってくれる。敵をやっつけると色んなアイテムが貰えるのだけれど、私にくれたりもする。小者の敵が出てくると、私も一緒に戦う。そして「(^^)」「(^^)」とお互いに笑う。
なにこれ、めちゃめちゃいい感じじゃない?すっかり恋人のような。

「もうご飯食べた?」「ううん、まだ。うちはカミさんが帰ってくるの遅いから、さっきカップラーメン食べた」「(^^)」「(^^)」。今日一日にあった事、本当に些細な事、色々な会話を沢山しながら、その架空の世界で知り合った友人との冒険はとても楽しいものだった。色んな場所に2人で行った。筏を漕いで島に行ったり、どこまでも奥深い森の中を彷徨ったり。どんな時も「(^^)」「(^^)」と笑いながら。

いつでもどこでも心ない奴はいて、ある日、なんてことはない、どうでもいいシーンで私は別のキャラクターに暴言を吐かれ、凹んだ。
しかもリアルでは自堕落の極みのような、本当に「お前たちはよくそんなんで生きていけますね」と言わんばかりの生活をしていて(今思うと不思議なくらい良い時代。笑)、まぁ、そろそろやめなくちゃなって思っていたので、ある日、堀くんに「私、そろそろやめようかなと思ってるんだー」と伝えた。堀くんはとても残念がってくれて、名残惜しい気持ちが勝ってしまいそうにもなったけれど、それでも さようなら を伝えて私は画面から消えた。

私たちが辞めたあとも遊んでいた友人夫婦に「ほりっち元気?」と聞くと、「ほりっち、最近見ないよー。やめちゃったんじゃないかな」と言っていた。そっか、彼もやめちゃったんだな。



本当に不思議なもので、このゲームを思い出すと、必ず堀くんとふたりで冒険したシーンばかりが浮かぶ。敵と戦いながら、チャットで会話しながら、「(^^)」「(^^)」と笑い合いながら、会ったこともない堀くんと遊んだ日々。
黄色のローブを着た私と緑のローブを着た堀くん。

この現実の世界で堀くんに会うことは確実にないけれど、それでも堀くんも時々「sol、元気かなー」とか思ってくれていると嬉しいな。





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