見出し画像

「日本一働きたい会社」はHRデータをどのように活用しているのか?LIFULL社に聞く、良い組織作りのためのデータの使い方

近年「ピープルアナリティクス」という言葉を目にする機会が増えていますが、社内で理解を得られなかったり、きちんと成果が出るのかわからなかったり…「実際に自社で取り組むのは難しそう」と感じている方も多いのではないでしょうか。

ピープルアナリティクスとは従業員に関するデータ(HRデータ)を収集し、その分析結果から組織が抱える課題を可視化し、解決へと導くアクションに繋げるための手法です。では具体的にはどう実施していけばいいのでしょうか?

「日本一働きたい会社」として有名な株式会社LIFULL(ライフル)でも、HRデータの利活用が進められています。組織としてはモチベーションが高い会社として有名で、2017年には「ベストモチベーションアワード」で1位を獲得。良い組織状態を保つために実践されている取り組みをテーマとしたセミナー「先進企業に学ぶ、ピープルアナリティクスの社内推進と成功事例」(「ヒューマンキャピタル/ラーニングイノベーション2021」内開催)の様子をレポートします。

登壇者:羽田 幸広氏 株式会社LIFULL 執行役員 Chief People Officer

2005年入社。人事部を立ち上げ、組織づくりに尽力。2017年「ベストモチベーションカンパニーアワード」1位を獲得。7年連続「働きがいのある会社」ベストカンパニー選出(2011年~2017年)。健康経営銘柄選定(2015~2016年度)。著書:『日本一働きたい会社のつくりかた』(PHP研究所)

社員の内発的動機をなによりも重視するLIFULLのHR


当社は「あらゆるLIFEを、FULLに。」というコーポレートメッセージを掲げており、その実現のために組織を組成しています。そしてそれは人事も一緒です。経営理念の実現と社員のウェルビーイング(幸福)の実現、この二つの両立が僕の仕事におけるミッションになっています。

事業の作り方としては基本的に経営陣主導のトップダウンで行っていますが、経営陣だけではあらゆるLIFEをFULLにする事業を無数に生み出していくには限界があります。そこで社員が自身の人生の中で感じた社会の課題に対して事業提案をしてもらい、挑戦してもらいながらビジョンを実現していくというボトムアップの方法も取っています。そのために、社員の内発的動機、自分の内側から出てくる「これをしたい、こうなりたい」欲求というのを一番重視しています。内発的動機に基づいて挑戦する機会を提供することで事業を生み出していくこと、そして仕事に集中できるように働きがいと働きやすさを両立させることを大切にしていますね。

一方、HR領域で今課題だなと思っているのは、組織の規模拡大への対応です。

個人的には組織の隅々までの状況を把握できていることを目指しているのですが、だんだん組織の規模が大きくなってきて、社員それぞれの状況の把握が難しくなってきているというのが一つ。

もう一つは採用面です。今は僕や社長、一部の役員が最終面接官として採用に関わっているのですが、規模の拡大が進んでいくと、どうしても最終面接を委譲していく必要が出てきます。入口は本当に重要ですので、ここをどうしていくかが課題として感じているところです。

画像1


エンゲージメントサーベイは「評価に紐づけない」こと


ー組織の状況把握については、エンゲージメントサーベイを実施されていると思います。こういったデータを取っていく取り組みに対して、社内で反発などはありませんでしたか?


当時はあまりデータ活用をしているという認識はなかったのですが、社員のアンケートのデータを集めてそれに対して手を打つということ自体は2003年くらいから始めていました。とはいえ、エンゲージメントサーベイだけだと組織の状況を把握しきれないので、経験に基づく直感でやっていたところをいかに定量で見ていくかというのを始めたのがここ3年ですね。エンゲージメントサーベイをもともとやっていたところに集めるデータを増やしてもあまりネガティブな反応はなかったと思います。

ただ集めたデータの使い方には注意をしています。例えばエンゲージメントサーベイは組織ごとに偏差値が出てしまうので、数字を上げようとすると圧力がかかり、噓を答えさせる形になってしまう可能性があります。なのでなるべくそうならないようにデータを取らせてもらって、データを使う際も人事考課や処遇には直接的には結びつけないように気をつけてきました。あくまで組織を改善するために数字を取っているんだと。

ー人事考課に反映しないようにしているというのがうまくいく要因なのですね。では具体的にどのように使うとうまくいくのでしょうか?
エンゲージメントサーベイで正しいデータを取得するのにもっとも重要だと考えるのは、何回かサーベイを実施して、悪い結果であっても、組織長の降職など目的外のことは何も起こらないということが事実として社員に伝わることだと思います。

経営陣としては数字が出るとどうしてもすぐに組織変更などに動きたくなってしまいますが、それはせずに、結果を社員にフィードバックして、解決策をみんなで考えてもらって、手を打ってもらって次の数字を見る、という形で、サーベイの結果を「自律的に組織改善する」という当初の目的だけの利用だけに留めました。

管理職にサーベイ結果の活用方法を伝える際も、「あまりに何度もよくない結果が続くようなら役割変更を考えることもあるが、すぐに役割変更することはしない」と伝えます。余計な不安を与えることがないように、こちらからデータ取得の目的と用途を伝えて、その通りに運用して、社員が信じるに足る事実を積み上げることが正しいデータを取得するのに大切なことだと考えています。

HRデータの利活用は「何を成し遂げたいか」が重要


ー経営側としては数字が出るとすぐアクションを起こしたくなるというのはよくあると思いますが、そうならないように気をつけていることはありますか?

HRの領域はどうしてもデータを取って検証して結果が出るまでに年単位で時間がかかってしまうことが多いので、経営陣に対して長期的に進捗を示していくことが重要です。とはいえ、あまり報告しないと「どうなってるんだ」と不安にさせてしまいますので、定期的に取得しているデータの報告に加えて、新しい軸で調べて分かったことなどを都度役員に伝えたり、少しずつ人事プロセスに分析結果を取り入れたりしています。

ーデータの利活用がきちんと進んでいることを経営陣に共有するのが大切ということですね。


当社の場合は、経営陣も「モチベーションのランキングで上位になることが重要なのではなくて、あくまでそれによって事業がうまくいくこと、会社のビジョンが実現されることが重要である」という共通認識を持っていることも大きいです。そこを間違えて、調査で一番になることを目的にしてしまうと、先ほどの話のように嘘を答えさせることにつながってしまいます。そこは人事の方が経営陣とコミュニケーションをとって、「データを使って何を成し遂げたいのか」という本来の目的を何度も何度も確認していくといいですね。

スクリーンショット (103)


各人事プロセスの中でのデータ利活用の取り組み


ーエンゲージメントサーベイのほかに、HRデータを使って取り組まれていることはありますか。
幅広くいろいろやっています。月1回個人のウェルビーイングを測るサーベイを実施していますし、退職予測、採用基準、配置や昇進の際など、人事の各プロセスの中でデータを使っていますね。

ー退職予測については弊社もご一緒させていただいていますが、在籍年数と退職率の関係というのは、会社ごとに状況によって全然違う波形になりますね。
そうですね。当社の場合、入社後何年でキャリアチェンジを考えやすいというデータが出てきているんですけど、そのタイミングにあたる人をしっかりサポートしていくと社内でのキャリアチェンジにつながり、結果として退職を抑えられるというのはあります。それが入社後何年で訪れるのかというのは、会社ごとに違うと思いますし、社内でも、例えば職種などによって多少ばらつきがあります。

また、当社では「キャリフル」という社内留学/副業制度や、「キャリア選択制度」というキャリアビジョンの実現のために異動ができる制度があったりするので、それを活用しないで部署に残り続けている人と、異動した人でも違います。

ー採用面ではどのようにデータを活用されているのでしょうか。

採用では面接の補助資料として「アッテル」を使わせていただいています。最終判断はもちろん面接官が行いますが、「アッテル」によって当社に合いそうな人かをAIで予測しています。

また、面接官のスキルが低いと、質問が偏ってしまったり、バイアスがかかってしまったりして網羅的に応募者の情報を収集し分析することができないことがあります。データを取ることでその方の全体像が捉えやすくなりますし、データと面接での回答の差異が明らかになるため、その点について掘り下げることも可能です。バランスをとるというか、ガイドとして活用できていると思いますね。

ー面接官の経験が豊富な方と浅い方、どちらが使うのが効果的だと思われますか。

どちらも活用できると思いますが、特に面接経験の少ない人が使うのは非常に効果的だと思っています。面接では質問する内容を事前に決めていることが多いと思いますが、最初のうちはどうしても相手を理解することよりも質問することに意識が行ってしまいがちです。そういう時に、データを見て「こういう資質が出ているな、ここ聞いてみるか」というふうに、シンプルに使うだけで人物を立体的にとらえられるようになると思います。

画像3


今後のデータ利活用の可能性と展望について


ーここまでうまくいっている事例というのをご紹介いただきました。他にデータを使っていて課題に感じられていることはありますか。
先にお話しした通り、HRのデータはデータを見てアクションを変えてその結果どうなったかを検証するのに一定の期間が必要です。直近の課題としては、これからその検証をしっかりやっていくことですね。

また、最初に申し上げたように、LIFULLでは社員の内発的動機というものをなにより重視しています。採用・配置・育成・評価・報酬・退職という人事の基本プロセスがありますが、 例えば退職についても、データを活用して後ろ向きの理由での退職をゼロにしていきたいと思っています。それぞれのプロセスで、データを活用することで社員の内発的動機を考慮した組織作りに取り組んでいきたいですし、それが業績や社員のエンゲージメントにどう貢献するのかというのは長期的に見ていきたいと思っています。

ー長期的スパンで、もっとデータを使って実現できたらいいな、と考えられていることはありますか?
一つはデータの民主化です。現在は人事のメンバーがデータを集めて、分析をしたものを各部門に渡すという流れになっているのですが、各部門長がいつでも簡単にデータを見られるようにしたいと思っています。僕ら人事が間に入らなくても判断できるのが望ましいですね。

二つ目はレコメンドです。今は組織サーベイをもとにメンバーの声を聞きながら課題を見つけていますが、サーベイの結果からこういう課題がある可能性がありますよ、とレコメンドができたら便利ですよね。配置においても同じく、例えばこの人をこの部署に配置するとこうなる可能性がありますよというレコメンドが出てくると、使う側としては負担なく使っていけますし、組織作り初心者でもガイドに従って動くことで精度を上げることができます。

最後に、これは個人情報などの問題もありますが、HRデータ収集の自動化ができたらいいなと思っています。例えば声や表情のデータを社員の許可を得たうえで収集して分析していくということですね。

ー最後に、今回聞いていただいている皆様、データを利活用してうまく組織を作っていきたいと思っている方に一言お願いします。
僕のような、データに関して素人の状態からデータを活用していきたいということであれば、どういうことを実現したいかを考えた上で、アッテルのようなパートナーを見つけるといいと思います。どういう活動したらいいかをプロの意見を聞きながら考えたり、「アッテル」のようなSaaSを導入したりすることで、最低限どのようなデータをどのように活用するべきなのかが手っ取り早くわかりますので、スピードアップできるのではないかなと思います。

本日はありがとうございました!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?