GARMIN UNBOUND Gravel 2021 #2

UNBOUND Gravelは2006年にDirty Kanzaという名称でスタートした世界最大の自転車グラベルレースイベントだ。グラベルというのは砂利や砂利道という意味であるが、もう少し広い範囲を指して舗装路の対義語、未舗装路として用いられるのが一般的だ。2020年に名称が変更されたのだが、それはKanza(これはもちろんカンザスを指す)が、過去に強制移住を迫られた先住民族の呼称でもあり、Dirty Kanzaからどうしても汚れた先住民というニュアンスが拭えないという議論があったところに、イベント創始者のBLM運動に関する不適切な発言による更迭が決定打となったという背景がある。Unboundは束縛からの解放、自由の身になるというニュアンスであるが、グラベルライディングによって自己を日常から解き放つという意味の裏に、イベントそのものを何かから開放したような含みを感じたりもする。花形は現役プロ選手も参加する200マイルレースだが、100マイル、50マイル、25マイルと、より冒険色の強い350マイルとクラスは幅広く、エントリーするライダーは2,500人を超える。同じ未舗装路や不整地を走る自転車競技で、シクロクロスの国内最大規模のレースである東京や野辺山のエントリーが500人程度、マウンテンバイクマラソン代名詞のSDA王滝が1,500人程度と考えると、なかなかの規模感だ。僕と森本をはじめ、数人の友人や業界人が自転車業界で最もホットなグラベルの最先端を体験しようと2020年のレースにエントリーしていたのだが、コロナ禍によって延期のうえ中止となった。2020年のエントリーは2021年または2022年にスライド可能で、僕と森本は2021年としたが、他の人たちは皆2022年を選択した。正しい判断だ。
誰もいないターミナルを森本が歩いてくるところを見つけたので、立ち上がり迎える。森本はアメリカ映画の巨匠と同じモデルのヴィンテージ眼鏡の奥でいつものように目を細めると、荷物預けてラウンジ行こうや、と言った。すぐ前のチェックインカウンターに荷物を持っていくと、グランドスタッフの女性はテキパキと仕事をこなし、僕たちの自転車にアップチャージがかかると伝えると、森本はすぐさま、あなたたちの会社は2019年にサーフボードや自転車など超過サイズのスポーツ用品について通常の受託手荷物と同じレギュレーションで対応すると宣言し、僕たちサイクリストからリスペクトを得たのにその判断はおかしいとクレームをつけた。長い確認作業の末に無料になったのだが、森本は去り際、少し高い声で、あなたたちとはもうサヨナラですね、と言った。捨て台詞の類にしては叙情的で森本らしいな、と思った。

>> GARMIN UNBOUND Gravel 2021 #3


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