GARMIN UNBOUND Gravel 2021 #11

保安官が乗車するピックアップ・トラックに先導されて100マイルクラス選手746人が目抜き通りを進んでいく。公道を封鎖してのパレードランはまるでツール・ド・フランスのようで、自転車のプロ選手になったような気分だった。選手はまさに老若男女というところで、アメリカのサイクリストの幅広さと、グラベルレースの普及率の高さを感じさせる。ふと、エンポーリア州立大学の下り坂で集団落車が起きたりしないかと不安がよぎったが、それは全くの杞憂で、同時にこれだけの人数の老若男女がしっかりと自転車を乗りこなしてスポーティな集団走行ができることに小さなショックを受けた。やがて昨日グラベルに飛び込んだカーブへと向かう。数キロに及ぶ直線のグラベルに選手が埋まっている様は壮観だ。前を走る選手たちの砂煙はまるで狼煙のようで、世界最高のグラベルレースが真にスタートしたことを宣言していた。後方からスタートしたので周辺にシリアスレーサーはひとりもいないが、選手全員が無理なくグラベルを時速25キロメートル程度で走行する。走っているのはグラベルなのだが、路面のスムーズさもあって走行の感覚はロードライディングに近かった。やはり例の自動車が作った3本の轍のどれかを走ることになり、ある程度の人数がいると空気抵抗を軽減するするため並んで走行し、追い越す時はレーンチェンジをするというハイウェイのようなルールが明示されることなく出来上がっていた。
家屋の前を通ると、朝早い時間だというのに住人が庭にでてライダーを応援してくれていて、小学生ぐらいの子どもがカウベルを鳴らしながら応援してくれている。UNBOUND Gravelは15年という時間をかけて大きくなっていたレースだ。彼らが物心ついた時から、毎年この季節になると多くのサイクリストが家の前を走り抜けていったのだろう。100年以上続くツール・ド・フランスのように、彼らが老人になってもまだ、このレースが続いていればいいなと思った。そんなことを考えてしまうのはスタートからずっと僕の感情が高めにセットされているからだ。フラットなグラベルと涼しい気温と感情的なテンションはとにかく最高で、淡々とペダルを回していくだけでグイグイ進んでいく。快調に周辺のライダーを追い抜いて走ると家も畑もなくなり、景色は草原と低木だけになった。青い空と白い雲、新緑の草原は地平線となって彼方まで続いている。そこに向かってグラベルが延々に続いていく。見たことのないスケールの美しい景色の中をひたすらグラベルを直進するという非日常の行為に知覚にズレが生じる。時間の感覚は麻痺し、語彙は消失する。森本はTTバーを握ってタイムトライアルレーサーのようなライディングポジションで走行していた。彼も調子が良さそうだ。少し後ろに入って楽をさせてもらい、この長いレースをしっかりと完走するには少し冷静にならないとな、と思った。

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