GARMIN UNBOUND Gravel 2021 #19

無事に水の補給も完了し、僕たちはコースに復帰した。緩やかな登りの2車線の舗装路を南に向かうと、すぐにサイクルコンピューターは右折を示した。そこにはこれまでと同様に1車線半ぐらいの砂利道があり、小高い丘に向かってなだらかに登っている。長めの休憩を取ってすぐというのもあって、短い登りは身体的にはどうということはなかっが、登りきって見えたものは地平線と低木、そこに真っ直ぐに伸びるグラベルで、これまでと全く変わらない景色だった。家畜が放牧されていたりと人の生活に近いところという感じはあるが、カウンシルグローブの中心から5分も走らないうちにこの景色というのは、あらためてここがアメリカを代表する田舎と言われる州の中でも、本格的な田舎町であることを思い知った。前半戦とさして変わらない景色に僕たちはまた黙って淡々とペダルを回すのだが、スタートして5時間、正午頃になってさらに気温が上昇してきた。サイクルコンピューターの表示では32度で、強さを増した日差しはさらに体感温度を上昇させる。
相変わらずの向かい風で、木陰も無く、雲も無い。容赦なく照りつける太陽を恨みつつ、前半と同じく緩やかな丘を登ると、なだらかに波打つ地平線に十字架が見えた。遠くにある教会だろうが、空と草原しかない空間では距離感が全くつかめない。ひょっとするととても巨大な十字架なのかもしれないが、こちらからではそこに通じる道も確認できない。街から外れるとすぐに地平線だけになるような場所で、周りに人工物が全く無いにも関わらずポツリと、誰からも忘れられ、それでも誰かを待ち続けるように存在する十字架はあまりに異質だった。
やっと100kmほど走ったかというところだが、グラベルの疲労度は舗装路のそれと比べ物にならない。倍と言ってもあながち間違っていないようにも思う。ロングライドの疲労は距離に応じて指数関数的に高まっていく。同じ50kmの距離でもスタートからと100kmからでは全く違うのは当然だ。つまり僕たちはチェックポイントの街から10kmほどしか走っていないにも関わらず、風や温度など天候のコンディションも含めてもうボロボロなのである。風向きは変わらず南行時に向かい風というところだが、こちらも午前中よりも激しさを増していて、今まさに南向きの長い直線を走っている。森本はTTポジションを取って前面投影面積を小さくすることで空気抵抗を下げようとしている。森本とローテーションを組み無心でやりすごす。単調な景色と長い直線は時間の感覚を曖昧にする。気づけば10kmほど走行し、サイクルコンピューターは左折を示していた。その曲がり角に大きな木が見えたので、僕たちは休憩をすることにした。路肩に自転車を寄せ小さな日陰に入り、グラベルと草原の境界のところに座り込んだ。カウンシルグローブから20kmほど走っただろうか。残りはおそらく50kmほど。数字としては3分の2を超えているが、この気温と風向き(この先、北行は僅かだ)では全く楽観的にはなれない。ため息をつきながら胡座をかき、頭を垂れていると隣で森本は撮影を開始した。

>>GARMIN UNBOUND Gravel 2021 #20


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