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一月の声に歓びを刻め

第一章  北海道・洞爺湖
 マキ(カルーセル麻紀)が一人で暮らす家に娘の美砂子(片岡礼子)一家が年始に遊びに来る。マキがこしらえたおせちを食べながら談笑などするが、どことなく白々しい。帰り際に美砂子がマキに

今日のおせち、れいこが好きなものばかりだったよね。

 れいこは性暴行の末に殺されたマキの次女である。
 一家が去った後、マキは過去の記憶に苛まれる。

第二章  東京・八丈島
 牛飼いの誠(哀川翔)の家に、娘の海(松本妃代)が五年ぶりに帰ってくる。彼女は明らかに妊娠しているが、自分からは言い出さない。海がいない隙に誠は娘のカバンの中に離婚届をみつける。
 誠の妻で海の母親は数年前に交通事故で亡くなっていた。

第三章  大阪・堂島
 れいこは五年前に別れた男の葬儀に参列した後、淀川のほとりで「トト・モレッティ」を名乗る男と出逢う。れいこは「レンタル彼氏」を生業とするその男を買う。トトとの交流の中で、れいこは六歳の時に遭った性暴力被害の記憶と否応なく向き合う事になる。

第四章  最終章
 
愛娘・れいこの遺体が打ち上げあられた波打ち際にひざまずき、マキは叫ぶ。

 お前は美しい。世界で一番、美しい。

ところ変わって、堂島の街を歩くれいこが奇妙礼太郎の『きになる』を口遊む。

 気になる人に花を贈ればいいよ
 
 
第一章、カルーセル麻紀の演技が凄まじい。娘のれいこが死んだ時の記憶がフラッシュバックし、その様子を再現する。娘夫婦が帰った後のさみしさが絶望へのスピードを加速する。片岡礼子の抑制された演技も素晴らしい。

 第二章、離婚届に記された男が帰ってくる港に鉄パイプを持って向かう父親。ちょっと短絡的過ぎないか? 他の章に比べて、この章が弱い気がするのは、このためだ。父親が運転する軽トラの前に立ちはだかり、娘は叫ぶ。

 人間なんて、みんな罪人だ

 その言葉は観客にも向けられている。

 監督の三島有紀子自身が幼少期に性暴力事件に遭っている。第三章の主人公であるれいこはその投影である。この章のみモノクローム。監督は、

 基本的に自分はモノクロの世界に生きているという感覚がずっとあるんですよ。

 と言う。
 あの日から色を失ってしまった世界の片隅で、れいこは道端の金魚草を引き抜き続ける。フラッシュバックに襲われるれいこを前田敦子が壮絶な演技で受け止める。

 マキの娘と第三章の主人公が同じ「れいこ」であるが、それは「生まれ変わり」だとか「生命のバトンが云々」とかはどうでもいい。はっきり言って、それは偽善だ。生まれ変わりなんかないし、生命はバトンみたいに受け渡しできない。私が思うのは、もっと生きたかったれいこの無念と、傷つきつつもこの世界で生きてゆくれいこの希望だ。




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