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ふたつの「新宝島」 - 酒井七馬と手塚治虫

1947年に育英出版から出た手塚治虫先生の単行本デビュー作「新寶島」は、40万部とも言われるほどの大ベストセラーとなり、その後のマンガブームの基礎をつくりました。当時これを読んだ多くの若者が驚嘆し、こぞって漫画家を目指した、と言われています。(もちろん私が生まれるはるか前のことなのでリアルタイムでは知りません)

しかしながら、この「新寶島」は、当時、大阪マンガ界のベテラン作家だった酒井七馬の原作をもとに、無名時代の手塚先生が絵を描いたもので、酒井氏は手塚先生が描いた原稿を60ページ近くカットし、勝手に台詞や絵を書き変えて発行してしまったので、手塚先生としては大変に不本意な作品だったそうです。(表紙絵も酒井氏が描いたみたいですね)。

そこで、手塚先生は1984年に講談社から手塚治虫漫画全集が刊行される際、原型に戻したリメイク版『新宝島』を一冊描き下ろされたのでした。大元の原稿(特にカットされてしまった60ページ分)はすでに残っていなかったので、記憶をもとに描かれたそうです。厳密にいうと絵柄やコマ割りなどもオリジナルとは少し違いますが、ようやく手塚先生の元の構想が再現されたわけです。

↑初版とリメイク版。初版ではバロン(ターザン)の顔を酒井七馬が勝手に描き替えてしまった
↑37年後のリメイク版は、当然ながらタッチも洗練されており、結末もオリジナル版とは異なる

手塚先生の没後、今まで読めなかった(手塚先生が封印していた?)1947年のオリジナル「新寶島」も復刻され、今では両方を読み比べることができます。一般的にはオリジナルの方が人気があるようですが、私は圧倒的に1984年リメイク版の方が好きです。

ところで私は酒井七馬氏のことを、まだ無名だった手塚先生を騙した悪い人間だとずっと思っていたのですが、色々と調べてみたら悪い人ではなかったみたいですね。ただ「子供向けの漫画はただ楽しければよい」という古いタイプのマンガ家だったようで、革新的だった手塚先生とは最初から考え方が違っていたようです。

この二人の確執を描いた須崎正太郎さんの力作「小説:酒井七馬と手塚治虫」が、な、な、なんと無料で読めてしまいます。そして朗読版も無料で聞けてしまうのです。5時間半と長いですが大変に面白いので、手塚マンガの好きな人はお盆休みにでも聞いてみるのもよいのではないかと思います。



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