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Hume: A Very Short Introduction(邦訳『ヒューム入門』丸善出版、2024)を勝手にダイジェスト(一)ヒューム受容の三つの不運とイントロダクション

▶連載について

 今年はヒューム国際学会(Hume Society Conference)50周年だそうです。そこで、たまたま今年出た、自分が何かしらを担当したHume: A Very Short Introduction(2021:邦訳『ヒューム入門』丸善出版、2024年)を紹介する自分なりのダイジェスト版を書いていこうと思います。著者の正確な主張については本書を手に取って確かめてもらうのが一番なので、ここでは一読者としてこの本をどういう本として受け取っているのかを伝えるように自由気ままに書いていくつもりです。個人的には、「ヒュームは気になるけれど、なかなか議論が難しい」と感じている読者の方々が読み進めるための一助になれば幸いです。


▶第一回
 

いきなり訳者あとがきからーーヒューム受容の三つの不運 


元々Oxford University PressのVery Short Introduction(以下、VSI)シリーズのヒュームはA.J.Ayerが書いていたもので、2021年にSt.Andrews大学のJames A. Harris先生が新たに書き下ろしたものである。Ayerは周知の通り、分析哲学を専門にしており、議論もまた認識論に偏りがちであったと思われる。しかし、Harris版にいたっては、紹介文にも書いてあるように、哲学、倫理学、政治経済学、歴史学(加えて、宗教学)などの観点から書かれたものであるため、幅広くヒュームの思想を網羅した入門書ということになろう。

訳者が解説するように、本邦での哲学者ヒュームの受容には三つの不運を背負っているという。
①ヒューム渾身の処女作『人間本性論』が理解されなかったのみならず、誤解に基づいた誹謗中傷を招いてしまったこと。
②後続の哲学者イマニュエル・カントーー今年、生誕300周年を迎えるがーーがヒュームを翻訳で部分的にしか理解せず、ヒュームを懐疑主義、形而上学の破壊者として強調しすぎたこと
③20世紀初頭、ノーマン・ケンプ=スミスによって本格的な再評価がなされた頃に、論理実証主義の思潮に利用されてしまったこと
などが挙げられている。※Ayerもまた論理実証主義の流れを汲む哲学者であった。

以上の不幸がありながら、21世紀も四半世紀が過ぎようとしている現段階で、本書はヒューム受容の誤解を解くために書かれ、また邦訳もなされている。そういう意味では、ヒュームを包括的に理解するために本書を読むことは有益であるといえよう。




そしてイントロダクション

 2005年BBCが行った調査では、ヒュームは史上2番目位に偉大な哲学者とされている(1位はマルクス)。

 ヒュームは1711年生まれで、アダム・スミスの友人、ルソー、ベンジャミン・フランクリンの同時代人であった。ヒュームは古代世界に憧れながらも、科学や政治においては近代の方がより優れていると信じていた。

 ヒュームは大学教授にはならなかったが、今日でいう公共的知識人として学者以外にも読まれる文章を著述した。18世紀英国で知的論争に参加する人々はほぼ職業的な専門家であったが、ヒュームは全く新しいスタイルの文筆業の生き方を作り出したのである。また、注目すべきは、多くの古典に見出されるように、それまでの偉大な哲学者、思想家の多くの著作にはパトロンへの献辞が付されているが(例えばホッブズとかロックとかを参照せよ)、ヒュームはパトロンを必要とすることなく著述することができたことも注目に値する。

 ヒュームの著作のうち、やはり最初の著作である『人間本性論A Treatise of Human Nature』(Book1 and 2, 1739; Book 3, 1740)がよく読まれている。だが、当時では、この著作は同時代人に受け入れられず、ヒュームは著述のスタイルを変更し、プラトンやキケロ、フォントネルやシャフツベリに倣って、著述活動を行った。そして、歴史著述の一つ『イングランド史』で多大な成功を収めたのである。

 なお本書は、伝記ではなく、ヒュームの思想を編み上げた書物である。
伝記を読みたければさしあたり、Ernest C. Mossnerの書『ヒュームの生涯The Life of David Hume』(OUP, 1980)をあたるのがいいだろう。

(続)


▶書誌情報

著者  ジェームズ・A・ハリス
訳者  矢嶋直規
書名  ヒューム入門(Hume: A Very Short Introduction)
出版社 丸善出版(Oxford University Press)
出版日 2024年7月1日(2021年)


各種リンク

丸善出版 書籍紹介ページ
https://www.maruzen-publishing.co.jp/item/b306009.html
honto 書籍紹介ページ(電子版)
https://honto.jp/ebook/pd_33553759.html
Amazon 商品ページ
https://amzn.asia/d/i2Qhfd2

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