NHK 実践!英語でしゃべらナイト グローバルイングリッシュ12の心得-10「チーム力を発揮せよ!」

グローバルビジネスの担い手はグローバルチーム

 「社内の問題解決のために、プロジェクトチームを発足させたのだけれども、そのチームがうまくいかない。なんとかしてくれないだろうか?」
 「リコールした製品の再スタートを検討するために、タスクフォースが設置される。そのメンバーに入ってもらえないだろうか?」
 「提携先の企業と戦略委員会を始めて半年になる。でも、しかるべき成果が出ていない。どうも、委員会のチームワークに問題があるようだ」
 私は20年にわたってコンサルティング業務をしてきましたが、相談の内容は、こうしたチームを巡る問題が大半です。シリコンバレーに4年間いた時にも、アメリカと日本の企業提携に絡む問題や、日本に拠点のあるアメリカ企業の本社と日本支社とのトラブルについて、さまざまな相談や依頼を受けてきましたが、その8割方はチームに関する課題でした。
 考えてみれば、これは当然のことかもしれません。グローバルビジネスはさまざまなチーム活動によって成り立っているからです。現代の経営環境は変化が激しく、絶えず知的付加価値が求められる状況だと12月号の《心得9:考え抜け!Think it out!》でも述べましたが、こうした課題の解決のためにチームを結成することが日常的におこなわれているのです。
 しかしながら、これらのチームが期待される成果を出すとは限りません。皮肉なことに、冒頭のコメントのように、問題解決のために結成されたチームが、さらに問題を生み出してしまうといったことも起こっているのです。


チームとグループはどう違う?

 The committee is not working as a team. Right now, it is merely a group of individuals. (委員会はチームとして機能していない。現時点では単なる個人の集まりにすぎない)という言い方を聞くことがよくあります。この表現で押さえておきたいことは、team (チーム)とは何か、group (グループ)とどう違うのか、ということです。
 チームには、次の4つの特徴があります。

1タスクがある


 チームには成し遂げなければならないtask (課題)があります。task force (特別委員会、対策本部)ということばにそれがよく表れていますね。taskと似た語としては、映画「Mission: Impossible」でおなじみのmission (ミッション)もビジネスでよく使われます。
 これに対してグループとは、人の集まりを指します。community group (コミュニティーグループ)のように、さまざまな活動やtaskをこなすグループもありますが、基本的には集まること自体に意義を見いだすものです。
 なお、project team (プロジェクトチーム)ということばもよく聞きますが、これはtask forceと同義語と考えていいでしょう。

2一時的に結成される


 チームにはtaskありき。言い換えれば、taskがなければチームは必要ありません。また、taskが達成されれば、チームは解散されます。恒常的に存在するプロジェクトチームはありえないのです。この点でも、チームはグループとは異なります。

3多様なスキルを持ったメンバーが集まる


 チームが結成されるのは、1つの部や課 (division、section、unitという呼称のほかに、teamと対比する意味で、work groupと呼ぶこともあります)では解決できない課題に取り組むためです。そのために、さまざまな異なる専門領域(different expertise)を持ったメンバーが集められます。カルロス・ゴーン氏が日産の改革で結成したcross–functional team(CFT)が有名ですが、これもプロジェクトチームの呼称の1つです。まさに、部門や機能をまたがって結成することによって、多様な専門スキルを発揮することが期待されるのです。

4メンバー同士が互いに自立しながらも依存し合う


 「専門性の異なる人材が集まるけれども、それぞれの立場からの見解だけを述べる。しかも、お互いに課題解決のために歩み寄ることもなく、時には対立しながらも共同作業を進める、などということは見られない」
 こう聞くと、政府の委員会を思い浮かべてしまうのは私だけでしょうか。このような状況が生まれる理由はシンプルです。委員会(committee)がチームとして機能していないからです。committeeのメンバーは、出身母体や専門機関からの代弁者が多いため、上記のようなことが起こりがちです。しかし、チームは違います。課題(mission)解決が至上任務であり、メンバー同士は共同作業をしなければなりません。


グローバルチームの課題

 チームの本質を突き詰めて考えていくと、グローバルチームという課題が浮き上がってきます。グローバルチームとは、メンバーの多様性が幅広く、多岐にわたるチームのことです。
 7月号の《心得4:自分の殻を打ち破れ!オープンマインドの本質》で述べたように、国籍、人種、宗教などさまざまな背景を持ったメンバーが参加することがグローバルチームの特徴です。
 よく、「日本人はチームワークがあるから」ということばを耳にします。確かにわれわれは集団行動をとることに慣れていますし、チームワークの素地はあるかもしれません。けれども、均質なメンバーではなく多様なメンバーのチームをまとめられるかとなると、話は変わってきます。グローバルチームでは、本来のチーム力が問われるのです。


グローバルイングリッシュの秘訣37 チームの発展段階を知る4つのステップ

 あるアメリカ企業から、「上海での大きなプロジェクトがうまくいっていない。日本のベンダーとのコミュニケーションに問題もあるようだが……」という相談を受け、上海で10か国・40人近くのさまざまな関係者にインタビュー調査をおこなったとき、チームリーダーを務めるイギリス人エンジニアが次のように述べました。
Our team is still in the storming stage.
We’re not at the performing stage yet.
(われわれのチームはまだ混乱期の段階にあり、機能開始に至っていない)
 これは、アメリカの心理学者Bruce Tuckmanによる「チームの発展段階」と呼ばれる、4つのステップを踏まえた発言です。
 4つのステップとは次の通りです。

(1) forming (形成期)
 最初はformingの段階です。これはメンバーが集合し、チームが結成された状態を指します。

(2) storming (混乱期)
 次にstormingの段階が来ます。先に述べたように、チームではもともとそれまで仕事を一緒にしたことがない者同士が集まります。知らない者同士が、専門性や作業スタイル、コミュニケーションの取り方が異なるために混乱するのは当然です。侃侃諤諤(かんかんがくがく)、喧々囂々(けんけんごうごう)の議論になることは珍しくありません。そうした混乱や対立を超えて、チームメンバーがお互いに学び合いながら、次のステージ(norming)に移ることが重要です。

(3) norming (規範作り)
 normは「規範」と訳されます。つまり、チームとしての規範ができる状態です。規範は言語化された公式なルールやガイドラインとは限りません。むしろ言語化されていない(インフォーマルな)チームメンバーが合意したやり方が現実には鍵を握ることがよくあります。

(4) performing (機能開始)
 以上のような段階を経て、ようやくチームが機能し始めるperformingの段階に入ります。

 チームが結成されたからといって、すぐに機能し始めるとは限らず、そのようなケースはむしろ稀(まれ)であると知っておくといいでしょう。言い換えると、チームにはstormingは付き物であり、そこでしっかりと議論をしておくことが大切なのです。
 グローバルチームでは特にメンバーの多様性が高くなりますので、このプロセスをメンバー同士で共有しておくと、チームの運営がしやすくなります。


グローバルイングリッシュの秘訣38 チームの成功要因(KSF)を共有せよ!

 KSF(key success factor)もしくはKFS(key factor for success)とは、文字どおり、成功要因を表すビジネス用語です。チームの発展段階のプロセスを踏まえるとともに、どうしたらチームがうまくいくのか、つまり成功要因をメンバー間で共有することが肝要です。
 次のチェックリストは、グローバルチームの運営についての本(共著)*の第1章に私が書いたものです。どれが欠けてもチームはうまくいきません。英語の表現も併せて覚えましょう。

□Clearly defined shared goals
(明確に定義された共有のゴール)
 「チームがまとまらない」という悩みの原因は、多くの場合、ゴールの設定が明確でないことにあります。基本的なことですが、チームがどこに向かうのか、何のためにチームを結成したのか、求める成果は何かを定義し、メンバー同士で共有することが重要です。

□Acceptance of differences and clarification of similarities (違いの受容と共通点の確認)
 7月号の《心得4・秘訣2「多様性を生かせ」》で紹介した、多様性を積極的に生かすために必要なアクションです。

□Mutual learning through candid yet constructive feedback (忌憚(きたん)なき、かつ建設的なフィードバックによるお互いの学習)
 これも7月号の《心得4・秘訣4「フィードバックを受け入れよ/与えよ」》で紹介したことですが、チーム内では率直かつ建設的に(candid yet constructive)議論をすべきだということを強調しておきたいと思います。メンバー同士が遠慮している状況では、学びにはなりません。

□Communication strategy (コミュニケーション戦略)
 組織の中で支援を得るためには、チームの内外(internal and external)でコミュニケーションをしっかり取る必要があります。特に、チームの役割と責任(roles and responsibilities)
を社内で十分伝えておくことが大切です。

□An ongoing process of monitoring and adjustment
(継続的に取り組むモニタリングや修正プロセス)
 チームの課題を達成するためには、チームの作業の進捗(しんちょく)状況について継続的に観察し、必要に応じて軌道修正をおこなうことも重要です。

□Organizational alignment with strategy, structure, and systems
(組織の戦略、構造、システムとのすり合わせ)
 チームで設定したゴールや成果物(outcome)については、組織の戦略、構造、システムとすり合っているか否かを確認することも必要です。

□Top management commitment (トップのコミットメント)
 チーム運営には、経営陣あるいは上級管理職の支援が必要です。commitmentという語には、「覚悟」のニュアンスがあります。会社全体がチームを本気で支える覚悟がなければ、チームはうまくいきません。


*Delta Organization & Leadership LLC The 2009 Pfeiffer Annual: Leadership Development (J–B US non–Franchise Leadership)


グローバルイングリッシュの秘訣39 チーム内で継続的にモニターせよ!

 There is no such thing as “a quick fix.” It should be an ongoing process. (手っ取り早い応急措置は存在しない。継続的な取り組みのプロセスこそが必要なのだ)ということばを聞いたことがありますか。“a quick fix”は「手っ取り早い応急措置」という意味合いです。これは、組織的な問題については付け焼き刃ではない継続的な取り組みのプロセスが重要である、という戒めのことばです。
 《秘訣2》で紹介した成功要因をチェックリストとして使うのはチーム運営の第一歩ですが、さらに重要なのは、継続的にそれをモニターすること、つまり観察し、確認し、修正をすることです。ここではそれらに役立つフレーズを紹介しておきましょう。

 チーム発足の際に必須となるのは、基本的な確認です。
Let’s confirm our mission.
(われわれのミッションを確認しましょう)
What are the team’s goals?
(チームの目的は何でしょう)
What kind of outcomes is our team expected to produce? (われわれのチームに期待されている成果物は何でしょう)

 チームの作業が進むにつれ、必要に応じて以下のように確認することも必要です。「再確認する」の意味でよく使われる語には、reconfirm、redefine、revisitがあります。
Let’s redefine our team’s goal(s).
(チームの目標について、再定義してみましょう)

 次に、チームメンバーが行動計画を共有するために効果的な表現を紹介します。日本語でもここ数年の間に「見える化」ということばが浸透してきました。お互いの状況を可視化することにより、確認がしやすくなるのです。
Let’s create a checklist so that we can see all our action steps.
(われわれの行動ステップがすべて見えるように、チェックリストを作りましょう)
We may need to map out our actions to understand their sequence better.
(アクションの流れがよりよく分かるように、アクションマップを作る必要があるかもしれません)

 全体の流れを見たうえで、行動計画の中での優先順位を絞り込む作業も欠かせません。以下のように確認しましょう。
Which of these steps do you think is the most critical for us?
(これらのステップの中で、最も重要なものはどれだと思いますか)
What is our priority now?
(現在の優先順位は何でしょうか)

 そして、チームの進捗状況を、次のようにしっかりモニターすることが重要です。
How should we monitor our progress?
(われわれの進捗のモニターはどうしましょうか)
Let’s appoint a supervisor for each phase of the project. (プロジェクトの各段階のモニター役を決めましょう)

 これらの英語表現は使用頻度も高く、シンプルですので、ぜひ実際に使ってみてください。


グローバルイングリッシュの秘訣40 シナジーを実現せよ!

 シナジー(synergy)というカタカナ語は、ビジネスではすっかり定着しています。これは、1+1>2、あるいは2+2=5というように、チームの成果が、メンバー1人1人の力の単純な足し算の合計以上の結果をもたらすことを指します。
 そして、シナジーは決して概念的な意味だけではなく、実際の成果に結び付けることが重要です。私はこの十数年、企業でチーム力を向上するための研修をおこなってきましたが、その中に数字でシナジーを計測する演習があります。
 問題を10問、まずは個人で解いてもらい、その後4~5人のチームでディスカッションをおこなって正解を考えます。採点をおこなうと、例えば4人のメンバー個人の正解数がそれぞれ3、4、4、5 (かなり難しい問題なので、平均正解数はそれほど多くありません)だったのが、議論をしてチームで挑んだ場合の正解数は7、8と高く、ときに全問正解することもあります。まさにシナジーが生まれているのです。
 一方で、4人のメンバー個人の正解数がそれぞれ4、5、5、7だったチームが、議論をしても5問しか正解できないケースもあります (出現率は11%程度です)。これは、1+1<2のように、マイナスのシナジー(negative synergyと言います)のパターンです。
 原因は議論の仕方にあります。高いシナジーを出すチームメンバーのコメントを紹介しましょう。

We had a good balance of talking and listening.
(われわれは、話すことと聞くことのバランスがうまくとれている)
We try to think of all the possibilities.
(われわれは、あらゆる可能性を考慮しようとする)
We do not try to persuade our fellow participants that we are right. We simply share our reasons. (われわれは、ほかのメンバーを説得するのではなく、お互いの前提を共有することに努める)

 反対に、マイナスのシナジーを出すチームメンバーからは次のようなコメントがよく聞かれます。

I was so busy trying to persuade other participants that I wasn’t listening.
(ほかのメンバーの発言を傾聴するのではなく、説得するのに注意が行ってしまった)
One specific participant dominated the conversation.
(会話が特定のメンバーに独占されてしまった)
Maybe we were afraid of conflict, and because of that we didn’t do a good job of exchanging
our thoughts and opinions.
(対立を恐れてしまったのかもしれない。それで、考えや意見を十分に交換できなかった)

 お気付きでしょうか。高いシナジーのチームは、「聞く」ことを大事にしています。一方、マイナスのシナジーのチームは、実質的な意見交換ができていないのです。
 チームのシナジーを生み出すためには、上記のコメントをヒントに次のように、お互い注意し合うことが大事です。

Let’s think of all possible action plans.
(行動計画のいろいろな可能性を考えてみましょう)
Let’s exchange our thoughts and opinions.
(考えや意見を交換しましょう)
One thing to remember: We should not be afraid of conflict.
(1つ思い出してください。対立を怖がる必要はありません)
We are the members of this task force!
(われわれはこのタスクフォースのメンバーなのですから!)

元記事



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