惨事 おむつバラマキ事件

 私は妻と交代で、息子たちの保育園の送迎をしてきたので、巨大キャリーバッグには、保育園の送迎グッズも入れている。送迎をすると、ちょうどラッシュアワーから外れることになり、巨大キャリーバッグで電車に乗り込むうえで好都合だ。

 以前、クライアントとの打ち合わせに遅れそうになり、キャリーを引きずって走っていたら、うっかり段差に気づかずに、キャリーごと転んでしまったことがある。

 ゴロゴロゴロ―、ドシャーン、バターン、ガサッ、バサッ、ドサー
何ごとかと振り向いた人たちの目に映ったものは……交差点一面に、大量のおむつ、おむつ、おむつ!

 出し入れしやすいようにと、チャックの入り口付近におむつを入れていた工夫がアダとなった。チャックがきちんと締まっていなかったのだ。

 周囲の人はみな「???」と不審者を見るような目で、散らばったおむつの真ん中に座りこんでいる私を見つめていた。誰も、おむつを拾うのを手伝ってはくれない。
(この人は一見するとサラリーマン風なのに、こんなにオムツを持ち歩いて、いったいどんな趣味の持ち主なのか?)とみんなの目が語っているような気がして、私は赤面した。
(ちがう!ちがうんだぁ。この大量のおむつは、みんな愛する赤ん坊のためのグッズであって、私は無実だぁ。おむつは、私の赤ん坊に対する愛の象徴なのだぁ!)

 交差点の中心で、愛と無実を叫ぶ。略して、“コサチュー”。はやらないだろうなぁ、きっと。

 仮に、同じことを妻がやったとしたら、おそらく周囲の人たちは、「あぁ、働くママなんですね。大変でしょうけど、がんばってください」と、みんな温かい視線で妻を見やったのではないか。そして、みんな散らばったおむつを拾うのを手伝ってくれたんじゃないか――と想像すると、私は男女の逆差別を受けたような気になって、ちょっと悔しい。

 ちなみに、妻にそう話してみたら、「私は、そんなにドジじゃないわ」と一刀両断にされた。

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