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黙っているけどつながってる


私の母は有料老人ホームに入居している。
要介護4で、ほぼ寝たきりに近いが、携帯電話が使える。

折りたたみ式の赤い携帯電話。
いわゆるガラケーだ。
これが母の目覚ましであり、時計である。
ボタンを1つ押せば私のところにつながるように設定してある。

折りたたみ式の携帯電話を使っている人は今では減ってきているだろう。
電話会社は、スマートフォンへの乗り換えをしきりに勧める。
しかし老人の指はツルツルした画面になじまない。
ボタンでしっかり押せる方が安心感がある。
そのため、何度勧誘されてもガラケーである。

入居したばかりの頃は、寂しさと不安感があって、1日10回以上電話がかかってきた。
最近はだいぶ落ち着いて1週間に1回程度になった。
だから母のさびしさが減ったと言うわけではないが。
待ち受け画面は、ひ孫のたっくんの笑顔。
93歳の母の待ち受け画面が、3歳のたっくんなのだ。
年齢差はなんと90。

母はもう自宅には帰れない。
私が面倒を見られないためだ。
自宅介護で神経がすり減ってしまった。
それは母もわかっていた。

ほんの半日だけでも、家に帰してあげたいとも思う。
しかし車椅子で、オムツで、歩けない母をどうやって家に招き入れればいいのか、実際の流れを考えるとなかなか難しい。

もしも私がもう二度と自宅に帰れなかったら本当に悲しいだろう。

そんな葛藤を続けているうちに、このような社会情勢となりアクリル板越しに15分の面会をするのが精一杯となってしまった。

そんな母を、毎日見守っているものがある。

これは携帯電話の見守り機能だ。
母は、このようなサービスが自分の携帯電話についていることを知らない。

●初めて携帯電話を開いた時刻
●電池の残量
●歩数

がわかる。
歩数はいつも0歩だ。
(ある日突然100歩にならないかなぁなんて夢見ている)

電池の残量が減っていて、充電をしたタイミングがわかる。

電話の通話がしなくても、とりあえず携帯電話をいじったことがわかる。

母は知らないけれども、こんなところでちゃんと私とつながっている。

電話をするとよく泣かれる。
重荷になって、ついつい電話をしたくなくなる。
でも、でも、明日は電話してみようと思ったそんな夜更け。

おやすみなさい。

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