どこ、見てんだぁ。

今日は、なっちゃん(あつこの次女)と2つ先の駅で待ち合わせ。
まーくんの4ヶ月検診です。
「荷物がたくさんあるし、保健所は駅から少し歩くし、自信がない」
新米ママのヘルプ要請。

急ぎ足で駅に向かうあつこ。
駅までの道はまあまあの広さがあるのですが、
車がすれ違うのはちょっと狭い。
商店街なので人もたくさん通ります。

天気予報は30度を超えると告げていました。
風もなく、ムシムシしています。
ーーー

向かいから自転車がやってきました。
薄いこげ茶色のサングラスをかけ、
かかとを踏み潰した運動靴を履いた50過ぎの男性。
ハンドルさばきが甘く、なんとなく蛇行しています。

道の反対側に車が止まっていました。
道幅が狭くなったところで、すれ違い…。
男性がわずかにあつこのほうに寄ってきました。

「どこ見てんだぁ。通れねぇだろう！」

突然の大声。
あつこは一瞬体を縮めました(ビクッ）。

ちょうど後ろを歩いていた
お団子頭のグレイヘアの女性も
驚いたように足を止めました。

自転車は何事もなかったかのように
ゆっくり通り過ぎて行きました。
ーーー

「見てなかったのは、あなたの方でしょう」
あつこの口から、小さな声が漏れました。

お団子頭の女性も
「ねぇ、ほんとね」と応じます。

あつこ「怒鳴って、うさ晴らしですね」

お団子さん「きっと家に帰っても
奥さんに口きいてもらえないんじゃない」

あつこ「そうですね、家の中で誰にも相手にされてないんですね」

お団子さん「オンナに相手にしてもらえない人なのよ」
お団子さんはちょっとため息をつきました。

あつこ「もしも私ががっちりした体格の男性だったら、あんな風に怒鳴ったりしないでしょ」

お団子さん「相手を見て怒鳴っているわね。
体の小さい女性だと反撃してこないから」

ーーーー

あつこ「いやいや…かわいそうな人ですね」

お団子さん「そうだけど、最近怖いでしょう。変な風にからまれたり、殴られたりしたら損だから」

あつこ「かわいそうな人だと思ってやり過ごすのが1番ですね」

お団子さん「そうそう、それが1番。
可哀想な人だと心の中で憐れんでやりましょ」

こうして、女性2人はひそかな一体感にひたりつつ、
軽く笑い声をあげました。

あつこ「お気をつけて」

お団子さん「ええ、気をつけて」

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駅のホームで

なっちゃん「ママ、なんだか明るい顔してるね」

あつこ「そう？ちょっとかわいそうな人に会ってね」

なっちゃん「え？」

あつこ「保健所に行きましょう、
まーくんずいぶん大きくなったね」

不思議顔のなっちゃんに、クスっと笑ってしまうあつこでした。