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「南極、北極、月極」

小学校3年生の夏休み。
駅に向かう道の右側に、大きめの看板があった。

「月極 駐車場」


月極、の部分が赤く塗られて目立っていた。

「げっきょく」
9歳の私は心の中でそう読んでいた。

小学校4年生の夏、その看板が新しくなった。
そして文字も大きくなった。

「月極め 駐車場」


相変わらず「月極め」のところは赤く塗られていた。

「げっきょくめ」

なんで突然「め」がついてしまったのか、わからなかった。
ーーー

そこで、高校生の兄に聞いた。

「お兄ちゃん、
げっきょくに、めがついちゃったんだけど、なんで??」

兄は目をちょっと大きく見開くと、
「げっきょく、って何?」

あつこ「あの駅に向かうところの看板の字。
新しくなったら、め、が増えちゃったの」

兄の顔がおかしそうにゆがんだ。

兄「あつこはなんで、げっきょく、と読んだの」

あつこ「だって地球儀には南極(なんきょく)と北極(ほっきょく)があるでしょう。
だから月極(げっきょく)」
10歳のわたしはがんばって説明した。

兄は、はははっと大きく笑った。
そして説明してくれた。
ーーー

ええー。なんで、この字が「つきぎめ」って読むの。
月極
月極め
両方ともそう読むなんて。

笑われて傷つくわたし。

兄「自分のあたまで考えられたね。
そしてわからないことを聞けて覚えたね。
えらいえらい」

そういって、ほめてくれたのだ。

季節は夏。真っ青な空に白い入道雲が
もくもくしてた。蝉が元気に鳴いていた。

入道雲を見ると
思い出す「月極」と兄の笑い声。

そして
これがわたしが国語が好きになったきっかけのひとつ。

ものごとが得意になるきっかけは
あんがい単純。

あれから50年。
お兄ちゃんもすっかり年をとった。
時々会うと、相変わらず心配してくれる。
変わらぬ気持ちにありがとう。

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